世界一“野蛮”なヤンキースファンのおもてなし

「ニューヨーカーは世にも稀に見る辛辣なスポーツファンだ」

そう聞いたことはありませんか? たしかに、ホーム戦では敵チームへの野次が凄まじいし、正直、品がないときも多いです。昨年はニューヨーク・ヤンキースのホーム戦で、対戦相手のクリーブランド・ガーディアンズ選手を目がけて、ライトスタンドからゴミが投げつけられた事件が記憶に新しいかもしれません。

そして、時に大きく話題に取り上げられるのは、“自チームの選手”へのブーイング。日本では余程のことがなければ起き得ないことはニューヨークでは日常茶飯事。野球では「ヤンキースのファンによる不調な選手へのブーイングが容赦ない」という話が一番有名ですが、向こう岸の(ニューヨーク・)メッツファンも2年前には自チームをブーイングしすぎる余りに、選手が活躍時のポーズとして「ファンへ向けたサムズダウン」を採用したことが物議を醸しました。

バスケチームのニューヨーク・ニックスも、かなり過激なファンベースを持つことで有名であり、先日プレイオフで敗退をした際には、一部のファンが自チームのジュリアス・ランドル選手が載ったポスターに落書きをしたり、足踏みしたことが取り上げられたりしました(奇遇?にも昨年、このランドル選手も自分へブーイングするファンに対しサムズダウンを向けた事件がありました)。

私も根っこからのニューヨーカーですが、このような度が過ぎた行為は苦手ですし、現地観戦の際にこのような場面に出くわしたときには、全力無視をするか早々に立ち去るかにしています。しかし、誉められない治安の悪さのなかでも一つ言えることがあります。それは「ニューヨークのファンは(ある意味)ロジカル≒筋が通っている」ということです。

ジーターやリベラにすら向けられた激しいブーイング

ヤンキースに絞ってお話をしましょう。信じられない話かもしれませんが、ヤンキースで活躍をしたスーパースターらも、ほぼ全員ブーイングをされた経験があります。ヤンキース史上最強のショートかつ第15代キャプテン、デレック・ジーター選手。歴代最多の652セーブを挙げた史上最強のクローザー、マリアノ・リベラ選手。昨季62本塁打を放った現キャプテン、アーロン・ジャッジ選手……といったヤンキースファンに最も愛された選手たちでさえ例外ではありません。

逆に言うと、「どれだけ実績があったとしても不調時には責任を取らされる」という極限まで実力主義な文化の表れであります。ジャッジ選手がブーイングされたのは、リーグ新記録の62本塁打目を放った数日後でした。ジーター選手の名言「ヤンキースファンは歓声を上げたいからブーイングをするんだ」が、まさにそれを体現しているのではないでしょうか。

そんななか、「長年活躍をしたのにブーイングされたのを聞いたことがない」と最近になって改めてファン間で話題になっている選手がいます。それはニューヨークでも、日本でも伝説とされている松井秀喜選手です。

2009年のワールドシリーズで大暴れをしてワールドシリーズMVPを獲得したことでも有名な松井選手ですが、ヤンキース在籍7年間で打率.292、OPS .852、140本塁打(OPS+123=当時の平均より23%優れた打撃成績)と安定的な成績を残し、極端な不調に陥ったことがなかったことが、今でもファンに好印象を与えていることでしょう。

プレイオフでは、もう一段階ギアを上げ、6年56試合の出場で打率.312、OPS.933、10本塁打と常に勝利へ貢献をしてきました(そして、あのワールドシリーズの成績を改めて見ると、6試合で打率.615、OPS 2.027、3本塁打8打点という数字がとにかく異次元すぎる)。

そのうえ、人格面でもファン・メディア対応やチームメイトからの評価も著しく高かったこともあり、ファンにブーイングをされる隙すら与えなかった松井選手。伝説なヤンキースキャリアから10数年経つ今でも話題に上がる彼は、ニューヨークにとって本当に特別な存在であり、ヤンキースの最後のワールドシリーズ制覇だった2009年が遠ざかれば遠ざかるほど、彼の評価が上がり続けていくでしょう。

▲ファンにブーイングをされる隙すら与えなかった松井選手 写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ