名物記者ジョン・ヘイマンの誤報が生み出したドラマ
ヤンキースの第16代キャプテン、アーロン・ジャッジ選手。昨シーズン(2022年)を通して我が国の英雄・大谷翔平選手と史上最高のMVP競争を展開したことで日本でも知名度を上げ、シーズン最終日前日にアメリカン・リーグ歴代最多記録となる62ホームランを放ち、文字通り歴史的な活躍を経てMVPに輝きました。
そんなジャッジ選手は、今年もヤンキースの主砲として元気にホームランを量産していますが、昨シーズンオフには一度フリー・エージェント(FA/一度無所属になり、どのチームとも契約できる状態を指す)になっており、ヤンキースも流出の危機と直面をしていました。
そして、一時期は本当にヤンキースを離れそうな兆しもあったところ、とあるツイートが全てを覆しました。MLB界の著名な記者であるジョン・ヘイマン氏が、ワンクリックでヘイマン氏がニューヨークを救ったと言っても過言ではないでしょう。今回はその1つのツイートと、それにまつわるドラマをご紹介したいと思います。
序章:FA確定、そして再契約の雲行きが怪しく
時は遡って2022年4月。シーズン開幕初日にヤンキースのゼネラル・マネージャ(GM)のキャッシュマン氏が記者会見を開き、7年2億1,350万ドルの契約延長を提示したものの、彼はこれを断った旨を発表しました。
ジャッジ選手は、以前よりシーズン中は交渉に応じない旨を公表していたため、これにより彼がヤンキースとの契約延長を交わす可能性は無くなり、ヤンキース首脳陣がシーズン開幕前よりピンチに陥ります。
しかも、さらなる逆風として、この交渉に関しジャッジ選手が「交渉の詳細は内密にしようと約束をしたのに、発表したことによってメディアやファンと敵対させることを狙ったんでしょう。交渉戦術なのはわかるけど、残念だ」とヤンキースに対する不信・不満を表明しました。ここで初めて「ジャッジがヤンキースと再契約をしない可能性」に現実味が湧いてきてしまいます。
そして、さらに事態を複雑化をさせたのが、ジャッジ選手の歴史的な2022年シーズン。ただでさえエリート級の成績を残してきた彼が、前述のとおり62ホームランを放ち、打率 .311, OPS 1.111, OPS+ 211 (リーグ平均より111%高い打撃成績)というとんでもない数字を叩き出し、走塁・守備も加えるとベースボールレファレンス社計測のWARでは10.6、ファングラフ社計測WAR*では11.5という100年超の歴史においても、トップ25級の単年成績を計測しました。
*WAR(Wins Above Replacement)の詳しい説明は「株式会社DELTA」さまの解説ページを参照ください。NPBの最新ランキングも掲載されています。https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_index_detail.aspx?gid=10105
これによってジャッジ選手の市場価値は一気に跳ね上がり、シーズン前に断った2億ドル強が雀の涙に見えてくる4億ドル規模の超大型契約も視野に入ってきました。3億ドル規模であればヤンキースは無条件で契約するだろうと言われていたものの、4億ドルとなれば、いくら金満なヤンキースでも、そしていくらジャッジ選手がヤンキースにとって不可欠な存在であったとしても、躊躇せず出せる金額ではありません。
特に近年は、以前よりも金払いが悪いヤンキースを見ると、シーズン終盤が近づけば近づくほど業界関係者たちも「もしかして…?」と囁き始めます。
そこにチャンスを見出して水面下で準備を進めていたのが、サンフランシスコ・ジャイアンツ。オフシーズン開始前から、ジャッジ選手の獲得先として最有力とされていました。
当時のチーム事情として、最も大きなニーズが主砲の外野手であった点、そして資金的にも余裕があった点が主要な理由として挙げられていましたが、そのうえでジャッジ選手の地元がサンフランシスコ近辺であり、かつジャッジ選手本人も幼少期はジャイアンツファンであったことも大きいプラス要因として挙げられていました。
そして、予想どおりシーズン中は交渉の音沙汰はなく、ヤンキースもアメリカンリーグ優勝シリーズで惜敗(4タテ)を喫し、ジャッジ選手はFAとなりました。