「音楽の人」から酒場ライターに
――パリッコさんは今まで本をいくつも出されてますけど、「酒場ライター」でやっていこうという感じになったきっかけは?
パリッコ 15年くらい前、その頃は音楽とかやっていたんですけど、友達から「読み物サイト」みたいなものを自分も作りたいんだということで、それで「なんかやれるでしょ、やって」と言われたんですね。昔から酒がめっちゃ好きだったんで、自分にできそうだなと思ったのが、その週に飲みに行った酒場の感想を書くという連載だったんですよ。それも「大衆酒場ベスト1000」というタイトルで……。
――最初から1000だったんですか?
パリッコ 「順位をつける気がない」ということを言いたくて「大衆酒場ベスト1000」。それが100回くらい続いた頃に、仕事として依頼をもらえるようになって。それが今に至るという感じですね。だから、いつの間にか会社を辞めてこうなっていた、という感じです。
ジュンスズキ 脱サラですね。何年くらいですか?
パリッコ いや、まだ4年も経ってないですよ。
――えー、まだ最近のことなんですね。
パリッコ ゆるい会社に勤めていて、18時に帰れたりしていたので、それから酒場に行って、副業みたいなことで文章書いたりとかできたので。その比率が変わっていって、今に至るという。
――執筆業で生きていこうと思ったのは?
パリッコ 副業の収入が本業を超えだした頃に「もういっちゃおうか」と思って。
ジュンスズキ 2019年くらいですか?
パリッコ そうですね。
ジュンスズキ 自分としては、パリッコさんは音楽の人だったんで。20年くらい前までは音楽の人で、レーベルとかもやられていて。そこから徐々に酒場ライターになっていきましたね。
――音楽の人が今はお酒の人になった(笑)。
パリッコ そうですね。流れに身を任せていたらこうなったという。やっぱり、先生たちのように創作意欲があるとかそういうことはないので。
――パリッコさんから見て、あいろんぱんさんの作品ってどうですか?
パリッコ 一番は「シンパシー」なんですよね。自分と同じことしてるっていう。家でどれだけおいしく酒を飲むか。
あいろんぱん でも、それはパリッコさんの本を読んでるからですよ。影響を受けたところもありますし。スタンディングで飲むところとか。
ジュンスズキ スタイルが一緒ですもんね。
パリッコ そうなんですよ。僕がすごく仲良くしてもらっている大先輩で、『酒のほそ道』という漫画を描いているラズウェル細木先生という方がいて、家がわりと近くてよく飲むんですけど。やってることが、酒飲みってみんな一緒なんですよ。だから、その系譜を「引き継いでくれる人がいるんだ」って。
あいろんぱん (笑)。
パリッコ ラズ先生の初期作品でも、ベランダを改造して「ちょっと飲んでみるか」とかやってたりするんで。同じなんですよ、酒飲みが考えること。
ジュンスズキ 土手で椅子に座って飲んだらいいんじゃないか、とかね。
――それが一番、酒の魅力を伝えられる。
パリッコ そうですね。なんて言うんですか、「系譜」ですかね。脈々と続くというか、それを担ってくれる若い方がいて頼もしく思いますね。継承者です。
ジュンスズキ ラズウェル細木先生が元祖ですかね?
パリッコ うーん、漫画でいうとそうかもしれないですね。池波正太郎先生とか、グルメの系譜はあるんですけどね。ラズ先生は「こだわりを捨てて楽しく飲む」みたいなことを開拓した人だと思っていて、それでいうと元祖かもしれないですね。
ジュンスズキ そうですね。『美味しんぼ』とかは蘊蓄(うんちく)が入っているので。
パリッコ ラズ先生も語るんだけど、最後は酔っ払ってどうでもよくなるというのが、いつものパターンで。それってすごいなと思うんですよね。
ジュンスズキ あいろんぱんさんはラズウェル細木先生の系譜?(笑)
あいろんぱん でも思ったんですけど、家でも外でも飲み終わったときって、そんなに綺麗なもんじゃないじゃないですか。もっと雑に終わるっていうか。
パリッコ 雑なんですよね、飲みって。
――毎日、起承転結を作っていられない。
あいろんぱん そうなんです。「これはこう、おいしくて」って、まあ書いていますけど(笑)。ただ「おいしい」という、それくらいでいいのかなって。
パリッコ ホルモン鍋に豆腐を入れるだけで幸せという、そんな感じがいいじゃないですか。