対人コミュニケーションを授業で教える小学校もある

では、なぜ、スマートフォンは子供に良くないのか。それは人間関係を対面での会話からダイナミックに学ぶべき時に、スマホでのやり取りは対人コミュニケーション能力にとって良い影響をもたらさないという考え方があるからです。

プラスの面も当然あるし、ちゃんと使いこなせなければ、時代に取り残されてしまう。であれば、教育現場で対人コミュニケーションを正規の教育科目として学ばせるような方向に変えざるを得ないということになるでしょう。政府は英語教育を推進していますが、英語よりも日本語のコミュニケーションはもっと重要なことだと思うのです。

私たち「千葉大学子どものこころの発達教育研究センター」では、小学校高学年の授業に不安の認知行動療法(「勇者の旅」というプログラムです)を取り入れていただき、子供の人見知り、人間関係の不安を減らす活動をしています。

適度なコミュニケーションで心を健康に

社交不安症の人に話を聞くと、コミュニケーションの際に強い「不安」を感じる人が多いことがわかります。本人にとっては、それはつらい状況です。しかし、本来、強い不安という感情は人間の成熟にとって必要であり、プラスの方向に働いてくれるものです。

たしかにストレスとなる負荷はあるでしょうが、コミュニケーションを絶ってしまってはいけません。例えば生活習慣病である糖尿病になる原因のひとつは、ある程度必要な運動を怠っているからです。

同様に、普段からコミュニケーションをとらないでいると、社交に伴う不安に耐えるのに必要な“筋肉”が弱くなってしまう。運動不足が体の健康に良くないのと同じです。コミュニケーション不足も心の健康に良くありません。

とはいえ逆に、やり過ぎもかえって良くないのです。運動をやり過ぎて膝や足を痛めてしまうことがあるように、コミュニケーションをとり過ぎることも、心の健康には良くないのです。

コンビニの店員さんと話してみよう

一日中しゃべり続ける人は、躁(そう)状態という心の病気の可能性がありますから、心の健康にいいとは思えません。バランスをとる必要があります。ですから、無理してやたらとコミュニケーション力を鍛えるということはせず、ある程度自分のできる範囲で少しずつ意識的に取り組んでゆくべきです。

例えば週に1回程度、英会話教室に通って、英語を話す脳の“筋肉”を継続的に鍛えることで、ある程度は英語が話せるようになります。それと同じように鍛えるのです。日本語のコミュニケーションも英会話と同じで、訓練しないと社交場面での不安に耐える能力がどんどん落ちてしまいます。

今後は社会全体で無人化・機械化が進んでゆきますので、リアルなコミュニケーションが減る方向にありますから、意識的に取り組んでいく時間を持つ必要があります。そんなに大げさに構える必要はありません。ちょっとコンビニで店員さんと会話をしたら、自分がリフレッシュできるような体験があったりしますよね。こうしたことの積み重ねが大事なのです。