宮下雄也は猫を飼っている
「最近、猫飼い始めたんですよ〜」
舞台稽古の休憩中、役者の後輩がとろとろに溶けたふにゃふにゃの顔で、僕の座ってる席の前に来て、愛しの猫ちゃんの写真をスマホ越しに会わせてくれました。
確かに可愛い。
座ってこちらを見てる写真、仰向けでお腹を見せてこちらを見てる写真、寝顔の写真……全てが黄金比率で完璧に可愛い。
何枚も愛猫を見せてくれる後輩に「うわすっげぇ」と何度も口にする僕から出る「うわすっげぇ」は、とんでもない美女を見たときの「うわすっげぇ」と同じ「うわすっげぇ」でした。
ご挨拶が遅れました、俳優をやっています宮下雄也と申します。
舞台を中心に活動してますが、近年は日テレのドラマ『ブラッシュアップライフ』でレミオロメンさんの粉雪を歌って、芸名が宮下雄也から「粉雪加藤」になりかけたり、同じく日テレのドラマ『だが、情熱はある』では、関西大学時代の山里亮太さんの先輩役で出たりと、ドラマにも少し出ている俳優です。
じつは、声優もやってまして『遊戯王5D,s』では主人公の不動遊星を演じてます。
そして、猫が大好きな俳優です。
僕の周りにはペットを飼ってる役者が多いです。気持ちはめっちゃわかります。
芝居稽古で泣いたり怒ったり笑ったり、答えの無い台本を何度も開いては、白紙にさせる勢いで目から台詞を食べて、お歳暮のタオルくらいギチギチに詰まった帰りの電車に揺られて、ようやく自宅の玄関を開けたとき、猫の存在がものすごく欲しいことがあります。
猫は究極の癒しを与えてくれます。「にゃ〜ん」の鳴き声はドラクエのベホイミくらいの回復効果があると思います。人間の「おかえり」もいいですが「にゃ〜ん」が欲しい。
言葉が伝わらないくらいが、ちょうどいいときもあります。
「チラッと耳にしたんですが、雄也さんも猫飼ってるんですよね? 見せてくださいよ!」
やばい。
「え?……あぁ。飼ってるよ」
やばい。
確かに僕は猫を飼ってます。
でも、一瞬返事するのに躊躇する理由があるのです。
僕が飼ってる猫の種類はこれです。
そう、僕が飼っている猫の種類はダンボール。
なので、僕のスマホの愛猫写真フォルダは、ダンボールをハサミで猫の形に切って、ガムテープを貼って作った、ダンボール猫の『おはぎ』しかいないのです。
そう、まさに今、僕のことをあんまり知らない後輩が“宮下雄也は猫を飼っている”って情報だけで、肝心な「ダンボール」ってことを知らずに話かけてきたのです。
そりゃそうですよね。ダンボールの猫を飼ってると思われてるほうがレアですよ。
それで、いきなり生きてる猫じゃなくて、ダンボールでできた猫を見せられたら相手は、どう思うか考えたときに、やばい! と咄嗟に思いました。いや、おはぎも生きてるんですけどね。
動かないけど。鳴かないけど。濡れたら死ぬけど。