相方の山里亮太と挑んだ『M-1グランプリ2004』で準優勝し、大ブレイク。その後、お笑い芸人としてはもちろん、役者・ボクシング・アートと、さまざまな分野で才能を開花させているしずちゃん(南海キャンディーズ)。
彼女の半生を綴った自伝的エッセイ『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』(ヨシモトブックス)が8月2日に発売された。幼少期から、「しずちゃん」の誕生、芸人×ボクサーとしての日々、南海キャンディーズの第二章、結婚……と「山崎静代」と「しずちゃん」のこれまでがまとめられた一冊だ。
ニュースクランチ編集部は、彼女が運命的に出会った人物とのエピソードや、山里と若林正恭(オードリー)の人生をドラマ化して話題となった『だが、情熱はある』(日本テレビ系)のことなど、たっぷりとインタビューで聞いた。
ボクシングと出会っていなかったら“今”はない
――執筆にあたって、ご自身の半生を振り返ったと思いますが、改めてどんなことを思いましたか?
しずちゃん チャンス大城さんの『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)を読んだんですが、全エピソードスゴいし、漫画みたいな話(笑)。大城さんと比べると、自分は全然、波乱万丈な人生ではないというか。ただ、芸人とか、絵画とか、子どもの頃から女優さんへの憧れもあったお芝居とかは、まだ想像の範囲内やったんですけど、そのなかでボクシングは異質。でも、そのボクシングのおかげで、自分の人生は豊かになったなと、改めて思いました。
――本を読んで特に感じたのが「人との出会い」でした。まずは、芸人人生を大きく変えることになった山里さんの最初の印象を教えてください。
しずちゃん 最初に私が認識したのは、足軽エンペラーというコンビだった山ちゃん。普段、喋ることはなかったし、芸風を見ていただけなんですけど、この人うさんくさいな。仲良くなれなさそうだな。違うタイプの人間だろうなとは思っていましたね。
――(笑)。そんな山里さんとコンビを組み、M-1準優勝後に大ブレイク。バラエティーはもちろん、映画『フラガール』をきっかけに俳優業にも進出、そのあいだに山里さんと距離ができて……と、さまざまなことが本に書かれていましたが、芸人「しずちゃん」として、当時、どんな精神状態だったのでしょうか?
しずちゃん もちろんブレイクするためにやってきたわけで。ゴールデン番組で、今まで見てきたスゴい人たちと共演できるのはうれしかったです。ただ、自分たちの力不足で、うまくコメントを返せない。いっぱい仕事をいただくけど、実力が伴わないので、ツラい部分がありました。
特に当時は何をしているのかわからなくなっていて……。深夜から朝まで舞台稽古して、一旦、家に帰って1時間ぐらい寝るとか、大阪と東京の新幹線移動だけが寝る時間とか、仕事はうまくいかないし、忙しいし、“楽しむ”まではいけなかったですね。
――そこで、ボクシングと出会うことになるんですよね。この出会いは、芸人として、ひとりの人間として、考え方が変わる大きな出会いだったのではないでしょうか。
しずちゃん それがなかったら、たぶん“今”がないんじゃないかな、と思います。ボクシングは本当に苦しかったんですよ。でも、自分がぬるかったことに気づけたし、山ちゃんとは違う方向になったけど、お互いに相手の見方が変わる時間でもあったので、結果的にいい方向に向かうものでもあったなと。
――もし、ボクシングに出会えていなかったら、どうなっていたでしょうか。
しずちゃん 最初の頃、私のほうが目立つ仕事が多くて。シャンプーのCMに出させてもらったとき、キャッチフレーズの「カワイイはつくれる」に対して、山ちゃんが「どこがやねん」って(笑)。でも、私はまんざらでもなかったというか(笑)。子どもの頃から、女優さんやアイドルさんに憧れていたし、そのような扱いを受けて、そんなつもりなくても調子に乗ってたんやろうなって、今になって思うんですよね。
もしボクシングと出会ってなかったら、仕事が減っていくなかでも、勘違いしたままのイタい人になってたんやろうなと思います(笑)。山ちゃんとの距離も縮まらないまま、カタチだけの南海キャンディーズになっていたかもしれないですね。
――ボクシングに没頭していた日々は、しずちゃんにとってどんな時間でしたか?
しずちゃん ひと言で言えば地獄です。でも、数少ないですけど、勝ったときには、あんなにうれしいことはないぐらいうれしくて。しんどかったぶん、すべてが報われた気持ちになるんです。苦しければ苦しかったほど、勝ったときの喜びも、スゴい量でくるんやなと思いましたね。 そのとき以外は、本当に苦しいばかり。ずっと疲労状態だったので、歩くのがめちゃくちゃ遅かったです(笑)。
それに、メイクもしないし、髪の毛もどんどん短くなるし、げっそりして、筋肉もスゴくて、たまに顔にあおたん(あざ)を作ってくる。しかも、スパーリングが終わってジムを出たあとでも、闘争本能が残っているのか、スゴい顔をしていることもあって……。
「しずちゃん」というキャラが、ガラッと変わってしまいました。ボクシングをやっているあいだは、ルミネtheよしもとの舞台では、山ちゃんを(ネタのなかで)殴ってましたし。