ボクシングの恩師に言われた「“芸能人”でいるな」

――オリンピックを目指していたトレーナー・梅津正彦さんとのやりとりも書かれています。梅津さんから浴びせられた厳しくも愛ある言葉で、思い出深い言葉を教えてください。

しずちゃん 最初に「ボクサーなんやから芸能人でいるな」と言われました。芸人がボクシングをやっているので、チヤホヤされることもあったんですよ。出稽古に行っても、芸能人に教える感覚の方もいて優しくされる。それが当たり前になっていたから、ジムに入った途端、梅津さんから「全然違う。スイッチがボクサーになってない」と怒られることもありました。

当たり前のことですけど、ボクサーは全部、自分のことは自分でやるんです。高校や大学で練習したあとは、綺麗に掃除をして、学生と一緒にモップがけもやれ、と言われました。最初に「芸能人でいるな」と言われなかったら、そのことに気づけなかったと思います。今も一応、芸能人ではあるんですが(笑)。梅津さんの言葉もあって“この状況が当たり前”と思わないようにしたいし、それが基準のようになっています。

――梅津さんがこの世を去って10年が経ちました。梅津さんに対して、今どんなお気持ちですか?

しずちゃん 感謝ですよね。よくあそこまで引っ張ってくれたなって。人生であんな人に出会えるのは、なかなかないことなんやろうなと思います。

▲梅津さんに出会えたことに感謝してます

――グローブを置いてからは、コンビで漫才と向き合いはじめます。単独ライブやM-1再挑戦を経て、今があるわけですが、相方として、芸人・山里亮太のどんなところに魅力を感じていますか?

しずちゃん どんな私でも、 笑いにもっていってくれるところですかね。芸人さんってスゴいから、基本的にみんな拾ってくれるんですけど、特に自分のことを一番わかってくれているというか……。他のMCさんにはできない拾い方をしてくれるな、と思うことがあります。

――先日まで放送されていたドラマ『だが、情熱はある』が話題となっていました。富田望生さんがしずちゃん役として出演されていましたが、ドラマを見て、どんなことを思いましたか?

しずちゃん 役者さん、みんなスゴいなと思いました。モノマネじゃなくて、ちゃんと心情に寄り添って、その人になろうとしているなって。 2組(南キャン、オードリー)とも漫才シーンがあったじゃないですか。役者さんが漫才をやるって、なかなか難しいと思うんですけど、完璧にやっているから、笑いながら見てたのに、いつの間にか感動して泣いちゃいました。

――富田さんの印象はいかがですか?

しずちゃん 最初は「私、こんなにゆっくり喋ってるかな」と思ったんですけど(笑)、ヌルッと入っていく喋り出し含めて似てるなと思ったし、彼女は小柄なのに大きく見えるのがスゴいなって。富田さんとは「このとき、どんな気持ちでしたか?」「『M-1グランプリ2004』のシーンを撮るんです」とかメールでやりとりしていたんですけど、私が質問に答える前に(役の)気持ちを考えていて、作りこみが素晴らしかったなと思います。

結婚して変化したことは?

――昨年末にご結婚されました。お相手の俳優・佐藤達さんのどんなところがステキだと感じますか?

しずちゃん お芝居に向き合う姿勢とかは出会った頃から変わらないです。たとえば、お芝居で関わった人から「舞台をやるよ」とお誘いがあったとき、私は興味がなかったら「ありがとうございます!」と言って行かないんですけど(笑)、彼は全部に行こうとするほど律儀なんです。自分のことより、人のことを優先しちゃうので、不器用っちゃ不器用なんですけど、すっごくいい人です。 

――結婚後、ご自身で変わったなと思うことはありますか?

しずちゃん 旦那さんの舞台が終わって飲みに行くときに、自分から「この時間に絶対帰る」と言ってきたのに、全然帰ってこないことがあるんですよ。LINEで「ごめん。あと1時間だけ!」「わかった」みたいなやりとりを繰り返していたのに、途中からその連絡もなくなって、朝まで帰らないとか。こっちは帰ってくると信じちゃうじゃないですか(笑)。

(結婚している)先輩からしたら「カワイイもんや。どこかで諦める」ということなんですけど、諦めると言っても、冷たい関係の“ほうっておく”にはしたくないし……。私はあまりイライラする性格ではなかったのに、今、そういうところで怒る自分が出てきていますね(笑)。でも、ここから、うまくやっていくんかな〜とは思います。

▲とてもうれしそうに旦那さまについて話してくれた

――ちなみに、山里さんがご結婚されたあと、隣で見ていて変化を感じることはございますか?

しずちゃん 優しくなったっていうのはあるかな。(妻の)蒼井優ちゃんはスゴい人。唯一、山ちゃんを怒れる人だと思うし、たぶん「こういうのはよくない」とか、いろいろ言うてくれているんやろうなと思います。

――最後に、個人的な活動として今後やっていきたいことはありますか?

しずちゃん 今年、初めて銀座三越で個展『しずちゃんの、創造と破壊 展』をやらせてもらって、すっごい幸せやったんですよ。もちろん、来てくれるお客さんはありがたいなと思いつつ、どこかで“山ちゃんのファンだろうな”と思ってしまうところがあって……。でも、お客さんと触れ合ってみると「この絵のこういうところが好きです」と言ってもらえて“自分にもファンがおるんや!”とうれしかったので、これからも続けていきたいです。

(取材:浜瀬将樹)


プロフィール
 
しずちゃん
本名・山崎静代。お笑いコンビ「南海キャンディーズ」ボケ担当。「西中サーキット」「山崎二宮」などのお笑いコンビを経たのち、2003年に山里亮太と「南海キャンディーズ」を結成。「M-1グランプリ2004」で準優勝を果たし注目される。お笑い以外では、2006年に出演した映画『フラガール』での演技が話題となり、女優としての活動も本格化させている。また、ボクシングでは、女子ミドル級の認定王者となる。趣味で描いていた絵画は、NHKのドキュメンタリー番組内で大きな絵を描く企画にて、敬愛する荒木飛呂彦先生から「色彩がジョジョぽいかもしれない」と、色使いや描き方を褒めてもらったことから、本格的に作品制作に没頭。以降、その独特な画風と絵画技術の高さはさまざまなメディアで注目を浴びており、2023年5月に初の個展「しずちゃんの、創造と破壊 展」を銀座三越で開催。絵本「すきすきどんどん」(幻冬舎)、「このおに」(岩崎書店)も発売中。X(旧Twitter):@sizusozotohakai