酩酊状態で大暴れ→サウナ室と仮眠室で軟禁
先日、ニューヨーク・ヤンキースから衝撃の発表がありました。
Statement from the New York Yankees: pic.twitter.com/kZhJETdr7x
— New York Yankees (@Yankees) August 2, 2023
ここまで先発ローテの一角を担っていたドミンゴ・ヘルマン選手が、アルコール依存症治療のために自主的に入院をし、チームから離脱。その後、ヤンキースのゼネラルマネージャーのブライアン・キャッシュマン氏が、記者会見でヘルマン選手の残りシーズン全休を発表し、彼の回復・健康が第一であることを明言すると同時に、今シーズンは戦力として見込めない理由も示唆しました。
先月、本連載の記事にて取り上げさせていただいたとおり、ヘルマン選手は現地6月28日にメジャーリーグ史上24度目の完全試合を達成したばかり。約150年の歴史を誇るMLBにおいて、2万人強の歴代投手のなかでも、ほんの一握りの偉業を遂げた彼はまさに勢いに乗っていた矢先のはずだったのに……。ファンだけではなく、チームメイトや球団関係者の大半からしても寝耳に水となりました。
入院の発端となった事件の詳細を聞くと、とにかく寒気がします。当事者の証言によると、現地7月31日の試合前に酔った状態でクラブハウスに入室をしたヘルマン選手は、ヤンキース監督のアーロン・ブーン氏やチームメイトと過剰な口論を交わしたり、テレビやソファに破損を与えたり、その日マイナーへの降格降格を告げられたロン・マリナシオ選手が荷造りをしている横でジョークを飛ばしたり、乱れた行動を取っていたとされます。
最終的にはチームメイトの試合準備の妨げとならないよう、苦肉の策としてサウナに放り込まれたあと、警備員の監視のもと仮眠室で実質軟禁をされたとのことです。とても自我を持っている人、制御が効いている人とは思えません。
※飲酒後にサウナへ入るのは非常に危険であるため絶対にお止めください。当時、ヘルマン選手をサウナに入れた者は医療関係の知見がなかったと推察致します。
ジェットコースター人生に耐え切れなかった
ここからは筆者の憶測も含まれておりますので、その前提でお読みいただけると幸いです。以前の記事と内容が被りますが、改めてヘルマン選手のキャリアを振り返ってみましょう。
2018年にメジャーデビューを遂げ、2019年に先発で18勝を挙げるというブレイクを果たすも、同シーズンの9月中旬に彼女(当時)へ暴行を加えてしまうDV事件を起こし、そのペナルティとして81試合の出場停止処分を受けました。これがキャリア最大の汚点となってしまいます。
人としてあってはならない罪を犯したことはもちろん、戦力として一番必要とされていたプレイオフに2年連続で出場できないことが、ファンやチームメイトからひんしゅくを買い、ここから批判および冷淡な扱いを受ける日々が続きます。
そして、出場停止処分が明ける見込みの2020年シーズン途中の復帰を目指しているなかで、新たな事件が起こります。新型コロナウィルスのパンデミックがMLBのシーズン短縮という事態を引き起こし、シーズンが60試合となったのです。
結果、ヘルマン選手の2020年シーズンの全休が確定してしまうことが、彼の心に追い打ちをかけてしまいます。この現実に耐えられなくなってしまったためか、短縮シーズンが始まる数日前にSNSでいきなり引退を表明します。しかし翌日には撤回をし、改めて来季復帰を目指す方針を示唆します。
2021年シーズン中に1年半振りの復帰を果たすものの、チームメイトにはのけ者にされてしまう様子が伺えたほか、肝心の成績は不安定そのもの。居場所を守るために戦い続けるという、心身ともにギリギリのシーズンとなりました。
完全復活を期した2022年シーズンは、開幕前から右肩のインピンジメント症候群(損傷を伴わずに痛みが起きる疾患)で4か月近く離脱したり、復帰後早々から戦力外対象=トレードの駒としてメディアやファンの考察にて取り上げられたりと(筆者も彼を戦力として見込むべきではない旨のnote記事を執筆しておりました)、まさに崖っぷちからのスタートとなった1年を過ごします。そんななかでも起死回生の好投を続け、ようやく正真正銘な復活を遂げた……ように思われました。
シーズンオフには、チームは積極的な先発補強を行い、前シーズンの活躍にかかわらず、2023年シーズン開幕前は先発ローテ構想外とされてしまいます。しかし他選手の怪我により急遽、先発五番手を若手有望株のクラーク・シュミット選手と争うことになり、またまたサバイバルにさらされます。
結果的にはローテ入りを果たし、好調なスタートを切るものの、一難去ってまた一難。現地時間5月16日の試合にて(自身のルールの解釈上では)意図をしない粘着性物質違反により10試合の出場停止処分を受け、またもや世間の批判の対象にさらし上げられてしまいます。
そして、完全試合を成し遂げる数日前に父親的な存在であった叔父が亡くなり、錯乱状態からなんとか立ち直り、ギリギリ出場までありつけたところで、まさかの快挙達成でした。
前置きが長くなってしまいましたが、各問題の責任の所在は別として、ヘルマン選手がとてつもないストレスにさらされていたのは歴然としているでしょう。それらを乗り越えて完全試合を達成したサクセスストーリー!!……と見栄えの良いお話がヤンキースファンのなかで形成されていましたが、これは綺麗事すぎたかもしれません。
外からは見えない、我々の想像を絶するレベルの苦痛に苛まれ、それに耐えきれず飲酒に頼ってしまったのではないでしょうか。
DV事件の際も酔っていたとされていました。今や4年前の話になりますが、仮にこの頃より(もしくはそれよりもっとまえより)ずっとアルコール依存症にて苦しんでいたのであれば、自身が起こした問題とはいえど、世間的に大炎上をしてしまったことにより余計飲酒に頼りたくなり、かつ助けを求めづらくなった可能性もあるかもしれません。