浮き彫りになった強靭な中継ぎと穴だらけの野手陣

今季メジャーで2番目にお金持ちといえる、総年俸2億6,450万ドル(≒376億円)を誇るニューヨーク・ヤンキース。オールスター休暇時点で地区4位、アメリカン・リーグ6位、プレイオフ圏外という、その金遣いに見合わない成績を残しています(それでも一応貯金は7、と一見そこまで悪くはないのですが……)。

昔は「悪の帝国」と他球団ファンを震わす恐怖の存在だったヤンキースが、今や筆者が所属していたリトルリーグチーム並みに怖くない存在に萎縮してしまっています。そして、なんと現地7月9日には打撃コーチのディロン・ローソン氏を解職。ヤンキースにおけるシーズン途中のコーチ解職は28年ぶりであり、久しぶりに首脳陣からかなりの焦りが透けて見えています。伝説となった松井秀喜氏のワールド・シリーズMVPの栄光より13年間、世界一から遠のいているヤンキースに一体何が起きているのでしょうか。

まず現状の把握から。本連載御用達のWAR*を各ポジション別で見てみましょう。近年の動きも見れるよう、5年間の推移をまとめてみました。

※2020年は60試合の短縮シーズンとなった為、比較の便宜上162試合按分ベースの数字を採用しています

真っ先に目立つのが、全体的なWARの低さ。リリーフ投手がリーグ全体2位と唯一圧倒的な力を誇るものの、それ以外の大半は平均以下。とても金満球団の戦力とは思えません。特にサード、レフト、及び指名打者が壊滅的であり、特にサードとレフトはもはや言語道断なマイナス貢献。仮にここらを改善できたとしても、ショート、ファースト、センター以外も平均以下で補強ポイントとして残る……完全体を目指すのであれば全体戦力を底上げすべくベンチの補強も必要でしょう。

そして一番痛手を負っているのがライト。打線及びヤンキースの要であるアーロン・ジャッジ選手が怪我による無念の長期離脱の最中であり、復帰目処が未定のまま。戻ってくるまでの繋ぎ要因を獲得するか、潔く耐えるかも難しい判断が求められています。

ただ、すでにお気づきかもしれませんが、これらを全て補強するのは不可能に近いでしょう。一応、プレイオフ射程圏内にいながらも解体をしたほうが早い、という不可解な状況に立たされています。

しかし、ヤンキースは売り手に周り、戦力を優勝候補チームへ放出をすることはないでしょう。GMのブライアン・キャッシュマン氏や監督のアーロン・ブーン氏は何度も「プレイオフは諦めていない」と明言しています。さっそく、打撃コーチとして現MLBネットワークのスタジオアナリストであるショーン・ケイシー氏を採用するなど、後半戦に向けて戦闘体制を整備中です。

ちなみに、ケイシー氏はブーン監督の現役時代の同僚であり、12年で生涯打率.302、OPS.814と輝かしい実績の持ち主。3度オールスターに選出されている他、3度 “Good Guy Award”(「いいやつ」賞)を受賞しているとおり、実力派と人格の良いバランスに期待を抱きたいところですが、コーチ経験がゼロという現実が非常に気になります。

正直、愚策でしょう。ジャッジなき今シーズンを潔く諦めて、若手有望株を獲得しつつ来季以降に備えることがどう考えてもベスト。しかし、どうせ迷走中なヤンキースを見守るのであれば、暗黒の中でもポストシーズン進出に向けた最善策を共に考えるのがファンの使命ではないでしょうか。

▲長期離脱中のアーロン・ジャッジ 写真:AP/アフロ