優しいアーティストたちが集まるイベント
――3000人も集めることができたのはすごいですよね。
小籔 その後は、国立文楽劇場という大きい会場もビッグポルノで埋め、HGも売れていった。ビッグボルノに関しても「こんなん、やって意味あるのかな?」と迷ったこともあったんですが、結果的にそれは間違いじゃなかった。だから、そこでリベンジが完了したんですね。
だけど、コヤソニに出てくれたスチャダラパーさんから「来年もやってよ」と言ってもらって。だから毎年やっていた。すると、RGから「ちょっとやめます。奥さんから“下ネタであんまテレビ出んな”と言われてしまって」と切り出され、ビッグポルノは解散したんですね。
そもそも、ビッグポルノがサマソニに出られなかったから「自分らでやろう」とアーティストさんに声をかけてできたイベントなのに、ビッグポルノがなくなってフェスだけ続けるのってセコいですやん。なので、筋としてコヤソニも1回閉じようと。
――なるほど。
小籔 でも、みんなから「続けろ、続けろ」と言われて。そこで「コヤソニを開催する元の理由がなくなったから、別の理由を作ったらいいんでしょ」と、新喜劇の後輩と「吉本新喜劇ィズ」というバンドを組んだんです。このバンドは、どこのフェスも出られへんので「コヤソニやっていいですか?」ということになる。
だから、2017年からは「吉本新喜劇ィズを広める」というテイで、コヤソニを再開しました。そのときの僕はバリバリ新喜劇の座長やったんで、“この活動が新喜劇にもつながればいいな”と思ってやってたんです。
新喜劇ィズのボーカルとベースとキーボードは、みんな女の子なんですけど、2020年、ほぼ同時に全員が子どもを産んだんです。“これはコヤソニに出られへんな”と思っていたら、コロナ禍でコヤソニ自体が飛んだんですね。で、“2023年はコヤソニできるな”と思ったら、今年になってボーカルが子どもをもう1人産んだんです。だから新喜劇ィズは今、子育ての方向性の違いでバンド活動休止中です。
――(笑)。
小籔 新喜劇ィズがなくなったら、コヤソニをやる理由がないなと思ったけど、ジェニーハイがあるので、一応の建前として「ジェニーハイを広めるためにやってます」と。だから、今年のコヤソニでジェニーハイは16日と17日の2回出演します。
――建前とニーズがあったということですね。
小籔 まあ、今となっては「もうやめろや」って人もおるかもしれない。芸人だって「また、今年も(スケジュールを)押さえられた。今さら断るのも気まずいから出るけど、もうええって」という人だって絶対おるやろうし。それを考えると、すごい胃が疲弊するんですよ。
――いやいや(笑)。出演者の皆さん、居心地が良さそうですけどね。
小籔 出演者の方々へギャラがいくら払われているか、僕は見せてもらえないんです。ほんまやったら、もっとギャランティを上げたいんやけど、たぶん標準以下の出演料で「小籔がやってるから出る」と承諾してくださっている。あと、レコード会社からしたら、自社のアーティストを出すのに反対すると思うんですよ。プロフィールで「2023年のフジロックに出ました」は強いですけど、「コヤブソニックに出ました」はプラスにもならん。
お客さんだって、フジロックに行ってTシャツを買って「フジロックに行った」とは言えるけど、「コヤソニ行った」ではイキれないと思うんですよ。フジロックやサマソニは「俺、行ったんや!」とイキりたくて、お金を払ってる人もおると思うんです。
――(笑)。
小籔 でも、コヤソニにそれはないんですよ。年末までイキられへんですから(笑)。音楽好きやイキり好きは来ないです。なのに出てくれるアーティストさんは、損得勘定なしに「小籔が言うんやったら行ったろか」って、ただ優しいだけの人なんです。なので、日本のアーティストフェスで、いちばん優しい人らが集まってる自信はありますね。
――コヤソニの出演アーティストは、小籔さんが自分で選んでお声がけすると伺ったのですが?
小籔 僕が好きやな、昔好きやったな、最近好きになったな、生で見たいな、それだけの話です。それ以外は何もないです。嫁はんが見たい、娘が見たいでオファーすることもありますけど。それ以外は、基本的にどんな政治にも屈さないというのは、最初からあって。
――正直、他のフェスには「うちのアーティストを出させてくれ」という、ねじ込み的な打診もあると思うんですね。でも、コヤソニの場合はどんなねじ込みがあったとしても、小籔さんが「見たい」と言わなければNOということですか。
小籔 ええ。なので、べんちゃらかもわかりませんが、音楽業界の方から「他のフェスは誰かしらを伝ったら出られるルートはある。だけど、コヤブソニックはどのルートを辿っても無理なので、日本でいちばん出られないフェスです」と言われたことはあります。
――つまり、雑多なラインナップのように見えて「小籔千豊が好きな人たち」というカラーが貫かれているということですよね。
小籔 そうですね。そして、それに呼応してくれる優しい人らしか出てません。