『関西演劇祭2023』のフェスティバルディレクターを務める板尾創路が、人気漫画家とクリエイティブについて話し合う対談「板尾と漫画家」。今回の対談相手は、「THE BEST MANGA 2023 このマンガを読め!」で7位に選ばれた漫画『住みにごり』を連載中のたかたけし。

マンガを描くときは板尾を思い浮かべると語る、たかたけし。じつは帯を書いてもらった大物芸人との奇妙な縁もあるそう。また、板尾はコント「板尾係長」の裏側についても語る。漫画家と芸人、普段は絡み合わない職業の二人が共鳴しあう対談となりました。

▲「板尾と漫画家」第二回-たかたけし(後編)-

ビートたけしが帯を書いてくれたキッカケ

――『住みにごり』の第1巻はビートたけしさんが帯を書いてますよね。

板尾 え、すごいじゃないですか。

たか まさか書いてくれるとは思わなかったんですが……。デビュー作の『契れないひと』(講談社)が、自分の経験である飛び込み営業をテーマにした作品だったんですけど、本当に売れなくて。献本用にもらったんですけど、特に知り合いもいないし、渡したい人もいなかったんで、近所の美容師のおばちゃんにしかあげてなかったんです。

板尾 誰やねん、その人(笑)。

たか で、家に献本がめっちゃ余ってたし、本当にめちゃくちゃ売れなかったんで、これで『ヤングマガジン』みたいなメジャーな場所で描くのも最後だろうなと思って、じゃあ好きな人に送っちゃおうって考えて、たけしさんの事務所宛にツテもないんですが送ったんです。

――なんて書いて送ったんですか?

たか 普通に「ファンです、名前が一緒ですね」とかです。

板尾 すごいなあ(笑)

たか そうしたら、あるとき、講談社宛に大量のビートたけしグッズが送られてきて、宛名を見たら、北野〇〇さん、と女性の名前が書いてあって、そのなかに「“主人から面白そうだから読んでみたら?”と言われて読んだら、こんなに笑ったことないっていうくらい笑いました」って、奥さまからのお手紙が入ってたんです。

――すごいですね! たけしさんも読まれたということですよね?

たか それは書いてなかったんでわからないんですけど、でも褒めてくださったのがすごくうれしくて。本当に救われました。

――それが『住みにごり』の帯につながったんですね。

たか はい。「こういう経緯があるから」とお願いしたら快く引き受けてくださって。しかも、その後、お米とか缶づめとかレトルトカレーが入った、実家のお母さんみたいな小包も送ってくださって、たぶん「こいつ、食えてなさそうだから食料を送ってやろう」と思ってくださってるのかもしれません。

板尾 面白いなあ(笑)。

たか その『契れないひと』はあまり売れなかったし、自分の経験を思い出してしんどかったのもあって、憧れの人に褒めてもらえたのが余計にうれしかったです。

ブラック会社での飛び込み営業

板尾 飛び込み営業はしんどかったんですか?

たか キツかったですね。高額の教材をローンを組んでもらって買ってもらうんですけど、罵詈雑言とか、相手が泣き出してるのに構わず話したりとか、ドア閉められても足を差し込んだりとか、一緒に働いている人がそうだから、自分もどんどん麻痺してきて。

板尾 すごいなあ。なんで辞めたんですか?

たか ある日、いつものように飛び込みで行ったら留守で、帰ろうと思ったらちょうど家族が帰ってきて。お母さんと息子さんとおばあちゃん。ずっと商品の説明をしながら追いかけたら、玄関までは入れてくれたんですが、気づいたらおばあちゃんが鍬(くわ)を持っていて。

――鍬!

たか で、腹とスネを突かれたんです、その鍬で。有無も言わせず。

板尾 そこまでせんでええのにな。

たか でも、その一帯はうちの会社が訪問販売してるんですけど、酷いヤツもいたんです。だから、そういった情報が回っていたんだと思います。

板尾 ああ、なるほど。

たか で、鍬で突かれたから、恐ろしいし、仕方ないから家を出たら、息子さんの「おばあちゃんカッコいい!」って声が聞こえてきて。

板尾 (笑)。

たか その声を聞いたときに、“あ、この仕事は辞めなきゃいけない”って思いました。

――板尾さんは芸人以外の仕事をされたことはあるんですか?

板尾 ありますよ。吉本に入る前、長距離トラックの運転手やってました。今思えば、楽しかったですね。1人やし、今みたいにカーナビもないから地図見て、ちょっとした旅行気分でね。基本的には自由やったし。

芸人始めてからは、先輩から紹介してもらったスナックで働かせてもらったり、それも芸人仲間とやってたから楽しかったな。当時はコンビニとかも今みたいにめっちゃあったわけじゃないから、バイトする場所って限られるんですよね。日雇いの労働者を現場まで連れて行くマイクロバスの運転手とかもしたかな。

たか 僕はずっとコンビニだったんで。

板尾 今は漫画家で食べられてるんですもんね。

たか はい、一応。自分がずっと働いてたコンビニで、自分の描いた漫画が表紙に載ってるヤングマガジンを陳列したときは、うれしかったですね。