お笑いコンビ「130R」としての活動のほか、近年では味のある演技で俳優としても活躍している板尾創路。映画監督としても『板尾創路の脱獄王』『月光ノ仮面』、ピース・又吉直樹原作の『火花』を発表しているが、今年の11月に5回目を迎える『関西演劇祭2023』のフェスティバルディレクターも務めている。
そんな板尾が、人気漫画家とクリエイティブについて話し合う対談「板尾と漫画家」。今回の対談相手は大学在学中に描いた漫画で賞を受賞し、衝撃の最新作『サターンリターン』が完結したばかりの漫画家・鳥飼茜。
板尾のイメージを「男社会のドン」と称した鳥飼が、実際に板尾に会って感じたこと。板尾から見た鳥飼のイメージは? そして、それぞれの親子論など、どんどんスイングしていく二人の対談をご堪能ください。
板尾のイメージは「男社会のドン」
――事前に鳥飼さんにお伺いした板尾さんのイメージは「男社会のドン。私とはあまり接点がなさそう……」とのことでした。
鳥飼 そうですね(笑)。ちょっと失礼な感じになっちゃいましたね。
板尾 いえいえ。でも、男社会のドン……そんな感じ、ありますか?(笑)
鳥飼 はい(笑)。それに私は芸人さんとして活躍されている場面より、俳優さんとしての板尾さんのほうが見慣れているかもしれないです。
板尾 そうですか、あまりお笑いはご覧にならない?
鳥飼 いえ、お笑いを全く見ないわけじゃないんです。今日も吉本の本社に来て「見取り図のYouTubeで見た場所だ!」って(笑)。子どもの頃は、ダウンタウンさんが『ごっつええ感じ』とかやられていたし、板尾さんのことはもちろん認識していました。ただ、その頃のお笑いの感じが少し苦手で……。板尾さんは“そこの中心人物”ってイメージだったんです。
板尾 まぁ当時は、どぎつかったというか、そういうお笑いでしたもんね。
鳥飼 母親が教育者で、見るものとかにすごくうるさかったのもあると思います。出身が関西なので、みんなお笑いをめちゃくちゃ見ていたから、学校に行ったら話についていけなくてすごくイヤでした。
そこから、しばらくお笑いは見なかったのですが、中学生くらいになって、千原兄弟さんとかが大人気になっていて、その頃の番組は自発的に見ていましたし、舞台を見に行ったこともあります。そのなかでも、バッファロー吾郎さんが好きでしたね。
そして、大学生くらいのときに板尾さんが映画に出演されているのを見て、“お笑いだけじゃなくて多彩な人なんだな”という印象に変わりました。ただ、やっぱり男社会の人という感じはします(笑)。
板尾 それは、映画の印象ですか?(笑)
鳥飼 言い方が難しいんですが、その世代のお笑いの人たちの一派というか…(笑)。
板尾 (笑)。
鳥飼 お笑い界って上下関係がしっかりしているじゃないですか。そこのトップ集団、というイメージが強いですね。ジュニアさんとかも、私的にはどこかやっぱり怖いんです。面白いんだけど怖い。今は怖くない芸人さんもたくさんいますが、それは時代の流れで、あまり人をイジらないようにしようとか、そういう風潮が出てきているからだと思うんです。
板尾 それは少しあるかもしれませんね。
鳥飼 今回、対談するにあたって、自分と同世代の人とかに「板尾さんに会うんだよ」と言ったらすごく驚かれるんです、「あの“板尾”に…!?」みたいな。そういう反応を見ても「男社会のドン」だなって。
板尾 そこは関係ない気がするけどなあ(笑)。
鳥飼 私の思い込みかもしれませんが、歴史上そういうところにいらした方だというイメージが強い。ちょっとレジェンド的な存在ですよね。
鳥飼のイメージは「映像的な漫画を描く人」
――板尾さんは、これまで女性の漫画家さんとお話しすることってあまりなかったですよね。
板尾 これが初めてかもしれませんね。30代くらいまでは漫画もちょこちょこ読んでいましたが、最近は娘が『鬼滅の刃』を読みたいと言ったので、先に読んでおこうと思って、それで読みました。
鳥飼 全巻読んだんですか?
板尾 一応、全部読みました。子どもが読むものだから、よくない表現がないか、チェックしておこうと思って、面白かったですよ。
鳥飼 私も息子が「鬼滅の刃が全巻欲しい」って2年くらい前に言ってきたので、クリスマスに全巻プレゼントしました。
板尾 そういうときは、漫画家としてどういう気持ちになるんですか?
鳥飼 同業者っていう感覚がない、というとイヤな言い方になるかもしれませんが、“売れ方”の格も違うし、自分と異次元の漫画として認識しているので、当然、嫉妬とか何もないんですよね。子どもがアンパンマンを欲しがるのと同じような感覚ですね。
板尾 なるほど。
鳥飼 でも、読んでみたら、大人にも子どもにも引っかかるようなポイントがあって、そういうコツは自分の作品にも欲しいなとは思います(笑)。でも、やっぱり自分的には違う世界の人という気持ちです。
――板尾さんは鳥飼さんの作品を読まれて、鳥飼さんの印象やイメージのギャップってありましたか。
板尾 『サターンリターン』を読んだのですが、お会いして話してみて、作風と一致しましたね。直球な漫画ではなくて、映像的なものを描かれる方だろうなという印象です。
鳥飼 そうですね。私は見るものに関しては、どちらかというと映画とか小説とか、自分がやっているもの以外のジャンルのほうが見やすいんです。特に映画とかドラマには憧れが強くて。漫画を描くときも撮り方とかアングルとかをイメージして、映画っぽく見えるように工夫しています。
板尾 やっぱりそうなんですね。映像が思い浮かぶし、始まり方とか構成もすごく映画っぽいなと思いました。時間軸をずらしたりしているのがすごくわかって、あまり漫画を読んだっていう感じがしなかったんですよ。
鳥飼 意識して描いているところなので、それはとてもうれしいですね。