内陸部には「隠れトランプ」支持者が多い
およそ、40年前、1980年の大統領選挙でも面白い現象が起きています。カリフォルニア州知事だったロナルド・レーガンと、現職大統領のジミー・カーターの選挙戦です。
後に「レーガン・デモクラット」と呼ばれる現象が、デトロイトの北にあるミシガン州マコーム郡の投票から始まりました。民主党支持者だった有権者までもが民主党のカーター大統領を見限り、共和党候補のレーガンに投票したのです。
実はトランプの勝利にも、民主党支持者の動向が影響しました。そのことは後で述べますが、何といってもカギを握ったのは中間層です。彼らが本心をなかなか言わなかった結果、メディアの世論調査結果はずっと「ヒラリー優勢」一色でした。
選挙の数日前になり、クリントン氏とトランプ氏の支持率がほぼ同じで、それぞれ46~47%でしたが、残りの真ん中の中間層の6~8%の有権者の立ち位置がどうしても予想できませんでした。
しかし選挙の前夜になり、ニューヨーク・タイムズは「中間層は共和党に転びそうだ」と配信しました。同紙はヒラリー支持・トランプ不支持を早々に表明し、よもやトランプが大統領に就任するなどあり得ないと思っていました。
傲慢にも、自分たちリベラルメディアが結束して、トランプ叩きとヒラリー支援を強力にやり続ければ、絶対にヒラリーが勝利すると信じていました。そして世論調査を行っても、自分たちの思惑通りに動いているはずでした。
しかし、内陸部に住むアメリカ人は、支持者を公然とは口にしないもので、そういった人々こそ、実は「隠れトランプ支持者」だったといえます。
所得や人種からも支持する政党がわかる
アメリカの政治は、二大政党による8年ごとの政権バトンタッチが基本スタイルですが、従来、共和党支持者と民主党支持層は厳然と分かれていました。州や地域、人種や宗教、それに収入のレベルからも、支持政党がある程度わかります。
南部や中西部には、18世紀から19世紀の早い時期にアメリカへ移住した先祖を持つ住民が多く、保守の強い地盤です。
他方、20世紀以降に移住した住民と、グローバリズムの恩恵で潤った金融業界やメディア、IT関係者が多い西海岸や東海岸の都会には、リベラルが多いのです。工場労働者が多く、労働組合が強い五大湖周辺もリベラル一色でした。
移民であるヒスパニック系は、民主党を支持してきましたが、新しい世代はそうでもありません。ヒスパニックも2世になるとアメリカに同化してしまい、少数民族という意識は消えるからです。日系をはじめとするアジア系は、伝統的に民主党支持が多いです。
黒人層は、公民権運動を強く推進したハリー・S・トルーマン大統領の1948年の当選以来、圧倒的に民主党支持になっています。しかし、バラク・オバマの大統領選では多くの黒人が投票に行きましたが、2016年の大統領選ではかなり棄権しています。
2018年の11月6日投開票の米中間選挙で民主党は、黒人の棄権票を集めるべく働きかけましたが、さほどうまくいかず、それどころか、予想に反して共和党側に票が入っていました。
人気黒人ラッパーのカニエ・ウェストが、熱烈なトランプ支持者だからかも知れません。もう一つの理由は、トランプ政権が始まってから中間選挙までに黒人の失業率が史上最低に下がったからでしょう。黒人層は投票者全体の13%を占めていますから、決して小さくはない票田です。
とはいえ、やはり、選挙で最終的にカギを握るのは、右でも左でもない無党派層の人々になります。普段は全体の20%ほどを占める層ですが、選挙が近づくにつれ、多くの人々がどちらに投票するか決めていくので、最終的には6~8%となり、この層がどちらに転ぶかで、勝者が決まるのです。
また、所得のレベルでも両党どちらを支持するのか、明らかに傾向があります。2016年の選挙では、年収500万円を超えると男女ともに共和党と民主党が半々といわれました。年収500万円以下の層は、民主党支持が多かったといいます。低所得者層の多くは、手厚い福祉政策を望むからです。
こうした分断の傾向は、近年、ますます激しくなっており、価値観の違う人たちが互いに理解しようとしなくなっています。この傾向が明確に出たのが、2016年の大統領選挙でした。