日本人の多くが理解していないアメリカの政治の仕組みとは? 前回の選挙期間中は、トランプが大統領に就任するなどあり得ないと、連日のようにメディアは報道していたが、ケント・ギルバート氏によるとアメリカ国内の分断が、選挙結果に繋がっていると言います。

※本記事は、2019年9月に刊行されたケント・ギルバート:著『世界は強い日本を望んでいる』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

大統領選挙の勝敗のカギを握る中間層

前回の2016年11月8日に実施されたアメリカ大統領選挙の開票日、私もいくつかのテレビ番組に出演しました。そこで気付いたのは、日本人の多くの人が、アメリカの政治の仕組みをあまり理解していないことでした。

アメリカ政治の仕組みについて、簡単に述べてみましょう。

まず、アメリカの有権者を、左(リベラル)から右(保守)のレベルに応じて、1から100まで割り振ります。

▲『世界は強い日本を望んでいる』(小社刊)より

そのうち、「極左」と呼んでいい過激なリベラル層は【1~10】程度います。一方、「極右」と呼ばれる過激な保守層も【91~100】の部分にいます。この両サイドの10%ずつの勢力は極端すぎますので、どんなに議論しても支持政党を変えることはありません。極左は民主党、極右は共和党を支持します。

では、保守派とされている共和党の支持者はどの位置を占めるかといえば、【61~90】の部分です。反対にリベラル・革新派とされる民主党の支持者は【11~40】の部分です。それぞれ30%程度ずついます。そして、共和党の候補者を決める予備選挙には【61~100】の人たちが投票します。

民主党の予備選挙には【1~40】の人たちが投票します。それが本選挙になると、中間の【41~60】という真ん中の20%の人たちも投票するわけです。結果的にこの中間層がどう動くかが、大統領選挙の勝敗のカギを握っているわけです。

▲大統領選挙の勝敗のカギを握る中間層 イメージ:PIXTA

外では「トランプ指示」と言えなかった

民主党候補者争いの場となった予備選挙で、バーニー・サンダース上院議員は、極左層を取り込もうとしました。本人が「民主社会主義者」を自称する極左なので当然です。

予備選挙に勝つためには、共和党は極右の、民主党は極左の支持層を取り込めると有利になります。ですから予備選挙では、共和党の候補者は「小さな政府」を追及し「銃社会」を肯定する極右的な政策も、そして民主党の候補者は、公立大学の無償化など、まるで「社会主義国」のような極左的な政策も主張するのです。

ですが、両党の予備選挙を勝ち抜いて本選挙に進出すると、最後の勝敗は中間層の支持次第で決まるので、予備選挙での極端な主張が、明暗どちらの結果に繋がるのか、最終的にはわからないのです。

サンダースを破り、民主党の大統領候補者となったのは、ご存じの通り、ヒラリー・クリントン上院議員でした。第一次オバマ政権では国務長官を務めました。ヒラリーはさして先鋭的な左派ではありませんでしたが、サンダースの岩盤支持層を突き崩すべく左に寄ってしまいました。

大統領選挙の最中、左に寄りすぎた分を少し右に戻そうと試みましたが、今度は予備選挙で取り込んだサンダース支持層から「裏切り者」と責められ、結局、彼女自身の立ち位置がわからないまま、大統領選挙当日を迎えてしまったのです。

ただ、予備選挙中の候補者は左右に寄りすぎることをアメリカの有権者はよくわかっており、かなりのレベルまでは許容範囲といえるのですが、このさじ加減が難しいのです。

2016年の大統領本選の結果を左右したのが、極右や極左の勢力でなかったことは明白です。このときも、共和党支持でも民主党支持でもない中間層の支持が最大のカギでした。

選挙の前日まで、彼ら中間層は旗幟(きし)を鮮明にせず、世論調査をしても「まだ決めていない」と言い続けていました。しかし本当は、多くの中間層がトランプを支持していたのです。

中には世論調査に「ヒラリー支持」と答えつつ、実際にはトランプに投票した中間層も多かったことでしょう。メディアがしつこく「ヒラリー上げ」と「トランプ叩き」をしていたので、一歩家を出ると「トランプ支持」と言えなかったのです。