アメリカを理解するうえで欠かせないキーワードが「Unfair(不公平)」。今も続く関税を中心とした米中貿易戦争の始まり、それはアメリカ国民が中国に対して長いこと感じていた思いを、トランプ大統領が行動に移したことでした。テレビなどでも活躍中のケント・ギルバート氏が日本の安全保障と合わせて解説する。

※本記事は、2019年9月に刊行されたケント・ギルバート:著『世界は強い日本を望んでいる』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

アメリカが日本の核武装を認めることはない

安全保障面を見てみましょう。北大西洋条約機構(NATO)は第二次世界大戦直後にできました。その目的は、ソ連から西ヨーロッパを守り、アメリカとソ連の間に緩衝地帯を確保することでした。

大戦直後、ヨーロッパの国々は壊滅状態だったので、大半の費用と、人材をアメリカが供給しました。その体制が長年続いてきたのです。

トランプ氏は、すでに豊かになったNATOの国々が軍事費を出し渋り、いつまでもアメリカにつけ込んでいることを「Unfair(不公平)」だと考えました。大統領就任直後、トランプ氏はNATOの首脳会談で激しくそのことを主張し、一同をひどく驚かせました。現在はNATO加盟国の負担を増やしてもらっています。

日米安保条約は、NATOと同様の目的を持っていた条約です。ソ連〔現在は中国、北朝鮮〕の脅威の防波堤、あるいは緩衝地帯を構築するための条約でした。日本に対する経済的優遇措置は、「強い日本の復興」を促進する国防的な意味合いもありました。

しかし、困ったことに、アメリカは日本に、いわゆる「平和憲法」を持たせていました。軍隊を持ってはいけないという、この「平和憲法」は、戦後の間違った占領政策の一つです。朝鮮動乱のときにアメリカはすぐにその過ちに気付き、警察予備隊を作らせ、後に自衛隊が設立されました。

実はアメリカは長年にわたって数回、日本国憲法第9条第2項を改正することを提案しています。しかし日本の政治家は、それをいまだに実現していません。

選挙中、トランプ氏は安保条約の片務的防衛義務を「Unfair」と揶揄しました。ある政治集会では、在日米軍の費用を日本が全部負担すべきだと主張し、そうでなければ安保条約は破棄、日本が核兵器でもなんでも作って自分の国は自分で守ればいい、とまで言いました。

日本のマスコミがこれを大きく取り上げましたが、トランプ氏は、実は政治集会の勢いで言っただけのことです。アメリカが日本の核武装を認めることは絶対にありませんし、トランプもそれを許すはずがありません。

中国の繁栄はアメリカに対する不正があったから

ちなみに、この発言に対して2016年8月、当時のジョー・バイデン副大統領がトランプ氏を激しく批判して、こう言いました。

“Does he not understand we wrote Japan’s Constitution to say that they could not be a nuclear power?”
(日本が核兵器を持てないように私たちが日本の憲法を書いたことをトランプは知らないのか?)

朝日新聞はバイデンの発言を「無神経」で「傲慢」だと報道したものの、他のメディアではあまり報道されませんでした。日本のメディアでは、「日本国憲法の草案はアメリカが作成した」と言ってはいけないことになっているからでしょう。このジョー・バイデンとは、2020年アメリカ大統領選挙の民主党候補に名乗りを上げている人物です。

▲日本国憲法原本「御名御璽(ぎょめいぎょじ)と大臣の副署」(2ページ目) [出典: フリー百科事典『ウィキペディア』]

 トランプ氏が当選してすぐに、安倍首相はニューヨークへ行き、トランプタワーでトランプ氏と会談しました。元大統領主席戦略官のスティーブ・バノン氏は日本で講演したとき、そのニューヨークの会談では、時間の大部分は安倍首相が中国の脅威についてトランプ氏に説明していた、ということを明かしました。

アメリカは、中国の現在の繁栄はアメリカに対する不正に基づいている、と信じています。確かにアメリカは、中国の知的財産権の侵害、国営企業への優遇措置、法整備の不備や不正、軍事力の拡大、為替操作、人権問題、南シナ海への進出などをずっと見逃してきました。

トランプ氏はこの「Unfair」を正さなければならないと決断しました。