テレビから流れるニュースを額面通りに受け取り、鵜呑みにするだけで良いのか? 日本と“一番近い国”であるアメリカを理解することで、物事の本質を捉え「情報に強くなる」ことができると、テレビなどでも活躍中のケント・ギルバート氏は言います。
※本記事は、2019年9月に刊行されたケント・ギルバート:著『世界は強い日本を望んでいる』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
トランプは「できる男」だから選ばれた
ドナルド・J・トランプ米大統領による既成概念を超えた独自外交が、世界を揺るがし続けています。当選してから2年以上経った今も、トランプ大統領のかつてないスタイルを多くの日本人は理解できていないことと思います。
その原因の一つには、日本の報道機関が、アメリカのマスコミによるトランプ批判ばかりをそのまま引用して報道しているということがあります。しかし、それ以前の問題として、トランプを選んだアメリカ人の考え方を理解できていないことがまず、大きいでしょう。
平成28年(2016)11月、大統領選挙の結果が日本で発表された朝、私はフジテレビの特番に生出演し、米NBCテレビの出口調査の結果を紹介しました。ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプ、それぞれの候補に投票した人たちに、その理由を聞く調査です。結果は次の通りでした。
1.私のような人間を面倒見てくれるだろうから :クリントン58%、トランプ35%
2.経験があるから :クリントン90%、トランプ8%
3.判断力があるから :クリントン66%、トランプ26%
4.変革をもたらすだろうから :クリントン14%、トランプ83%
つまり、面倒見が悪く、経験もなく、判断力も期待できないトランプ氏に投票した人は、その問題解決能力を評価したのです。言い換えれば、トランプは「できる男」だ、と思ったのです。実力重視のアメリカ人なら、当然の結果ともいえるでしょう。
アメリカ人が最も許せない「不公平(Unfair)」
トランプ氏は若い頃、ニューヨークのセントラルパークを見下ろす高層マンションに住んでいました。眼下にいつも眺めていたのは、壊れているアイススケート・リンクでした。何年経っても修理の工事が終わらない、いわくつきのスケートリンクでした。
トランプ氏は、その問題をたびたびニューヨークの新聞に投稿していて、かなり話題になっていたのです。「私に修復工事を任せればあっという間に、しかも安価に完成できる」と言い続けた結果、とうとうニューヨーク市長は「できるものならやってみろ!」とトランプ氏にその工事を委託しました。
トランプ氏はアイススケート・リンクの数も多いカナダから専門家を呼びます。そして、約束した期間よりも早く、しかも予算よりも安い費用で修復工事を完成させました。トランプ氏は、このことで「できる男」だと有名になりました。
トランプ氏は、きわめて自信過剰に見えます。そんな彼の態度に不満を持った人たちは、トランプ氏のビジネスに注目し続け、トランプ氏がときどき起こすビジネスでの大失敗を大喜びしました。しかし、結果としてトランプ氏は不動産王となります。結果は結果として、しっかりと評価するのがアメリカという国です。
ここで、アメリカ人の考え方というものを確認しておく必要があるでしょう。さまざまな研究によれば、アメリカ人が最も許せないのは「不公平(Unfair)」です。独立宣言に「平等」という概念を謳っている国なので、当然かもしれません。
同時に、キリスト教の背景もあって、人助けすることをアメリカ人は美徳だと思っています。だからボランティア精神が強いのです。アメリカ人は、人助けをしただけで満足します。助けた相手から期待するのは感謝だけです。しかし、感謝もされずに、善意を利用されて不利な状況にもっていかれた場合、アメリカ人はそれを許しません。まさに「Unfair」だからです。