洗い物の手間を省きたいなら「しぼりパン」

パン講座を開いて、実際に生徒やフォロワーと接して気づいたことがあるという。

「私自身、思ったこと、感じたことをズバズバ言うタイプなので、生徒さんからは“ここまではっきり言ってくださる方がいなかったので、ありがたいです”と言っていただけます。やはり、今の時代でも料理教室やパン教室は講師も生徒も女性の方が多くて、女性の良いところでもあるとは思うんですが、相手に感覚的にフワッと説明しがちです。

あとは、有名なパン教室の講師の方が受講されたりもしています。自分はパンが好きで人に教えたいと​思ったけど、講師のライセンスはお金を払ったら取れてしまうところも多い。いざ講師になったときに、理論や理屈がないと言葉に重みがなくなってしまう、と。そういう方に感謝されると、やっていて良かったなと思います」

彼女には“パン作りの敷居を下げたい”という想いがずっとある。

「私のフォロワーさんって8割~9割が女性。でも、“パンが好き”ということで言うと、男女比率ってそこまで差がないと思うんです。ということは、まだパンを作るという行為が敷居の高いものだと思われている。それはもったいない。

しぼりパンもそうですし、BOXパンもそうですが、少しでもパン作りに挑戦してほしいという気持ちです。たしかに普通にやるとなると面倒かもしれないし、イメージ的に時間がかかると思われがちなんですが、それは発酵時間、置いておく時間、焼いている時間が長いだけで、実際の作業時間っていうのはそこまで長くないんです。本当にシンプルなパンを作るのであれば、作業時間は短いんですよ」

彼女が言ったBOXパンというのは、コンテナの中でぐるぐる混ぜて、少し置いたら、3分チンで完成する、というパン作りの方法だ。

「じつは、しぼりパンのレシピ本を出したのも、BOXパンの本を買ったり、動画を見た方から“もっと洗い物などの手間を省けないでしょうか?”と質問が来たのがきっかけです。

正直、ここまで簡単にしたのに、まだ作る側にはハードルがあるの? という気持ちは少しあったんですが(笑)。でも、たしかに洗い物ってめんどくさいよね~と思って、しぼりパンというスタイルを提示させていただきました。おかげで2冊目のレシピ本につながったので、読者やフォロワーの方々には感謝しています」

▲読者やフォロワーの声から生まれた「しぼりパン」 撮影:内山めぐみ

実際にパンを作った方々からのコメントは励みになるという。

「お子さんを持つ親御さんにお伝えしたいのは、春休みとか夏休みもそうですけど、長期間の休みで献立に悩むとき、しぼりパンとかBOXパンを自由研究感覚でお子さんと作ってみては? 実験的な要素もありますから。そうすると勉強にもなるし、献立1食分が浮きますよ、ということです。

今回、しぼりパンの本を出させていただいてからSNSの反応を見ると“みんな、これを知ればいいのに!”という感想が多いんです。しぼりパンやBOXパンなどの作り方を、日本国民みんなに知っていただくのは夢ではあるんですが、私の中では、もっと簡単にできないか? という試行錯誤を続けています。

実際にパン作りに挑戦してみた方の意見をフィードバックして、もっとパン作りを簡単にできないか。その先には“パン作りは難しい”という固定概念を覆したい、という気持ちがあります」

もっと気軽に多くの人がパン作りをできる世の中を目指して、斎藤さんの挑戦は続く。最後に、これほど仕事と好きなものが地続きだと、気分転換はどのようにしているのかを聞いた。

「美味しいものを食べに行くのが好きです。特にウナギとポテトが好きで、美味しいお店の情報をお持ちの方はぜひ教えていただきたいです。もちろん、パンも好きなんですが、試作などでたっくさん食べているのでプライベートでは、パン以外の美味しいものを食べたいですね(笑)」


プロフィール
 
斎藤 ゆかり(さいとう・ゆかり)
栄養士・フードコーディネーター・フードスペシャリスト。東京農業大学、女子栄養大学卒業後、製粉会社に勤務。独立後、250種類以上の小麦粉の性質を見てきてわかったことをパン作りに取り入れる。2016年より「家庭でも失敗しないパン作り」をテーマにパン講座を開講。90%以上の受講者が成功するメソッドが注目を集める。2018年モンデュアル・デュ・パンのセミプロコンクール最終選考に出場。2019年よりパン教室の講師向け講座「こなこな・マジック」を開講。SNSの総フォロワーは約20万人(2024年3月時点)。著書に『世界一ズボラなBOXパン! -ぐるぐる混ぜて、少し置いたら、3分チン-』『爆速!しぼりパン -食べたいときにすぐ作って焼き立てが食べられる!-』(小社刊)がある。Instagram:@yukari.saito_、TikTok:@yukari.saito_