高齢者はメタボ対策よりも「フレイル」対策

近年「フレイル(虚弱)」という言葉がよく使われるようになりました。フレイルとは「加齢により心身が老い衰えた状態」のことで、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。

健康に戻れるか、介護・寝たきりへと進んでしまうのかの分岐点ということもできます。

フレイルには3大要素があるとされています。

身体的なフレイル

栄養が足りておらず、筋肉が少なくなった状態。足腰の筋力が衰えて、立ったり歩いたりするのがつらい状態で、転倒を繰り返すこともあります。食べ物を飲み込みにくくなったり(嚥下障害)、ものを食べづらくなったり(摂食障害)すると、一気に身体的に弱くなります。

精神的なフレイル

認知機能・意欲・判断力などが低下したり、軽度のうつ症状になったりする状態。

社会的なフレイル

人との関わりがなくなって、閉じこもりがちになり、孤独感が深まるような状態。

▲高齢者はメタボ対策よりも「フレイル」対策 イメージ:buritora / PIXTA

このような要素が重なりあうと、自立して生活する力が下がって、フレイルの状態が加速してしまいます。では具体的に、どのような状態になったらフレイルと判定できるのでしょうか。

フレイルの基準は複数ありますが、一般にはリンダ・フリード氏が提唱した次の基準が用いられることが多いようです。

  • 体重減少 意図しない年間4・5キログラムまたは5%以上の体重減少
  • 疲れやすい 何をするのも面倒だと、週3~4日以上感じる
  • 歩行速度の低下
  • 握力の低下
  • 身体活動量の低下

ここでもっとも注目したいのが体重減少です。中年期まで成人病対策や、メタボリックシンドローム対策として、肉類や炭水化物を制限し、体重を減らすことが健康だという意識でいる人も多いのですが、高齢になってからは意識して体重、特に筋肉量を増やすことに意識を転換する必要があります。

フレイルは急性のけがや病気による入退院をきっかけとするケースなどもありますが、多くは生活環境の変化などにより、少しずつ進んでいきます。その主な原因として次のようなものがあげられます。

  • 加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少
  • 身体機能の低下(歩行スピードの低下)
  • 筋力の低下
  • 認知機能の低下
  • 易疲労性や活力の低下
  • 慢性的な管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患、抑うつ症状、貧血)
  • 体重減少
  • 低栄養
  • 収入・教育歴・家族構成など

健康長寿を実現するために必要な4つのポイント

高齢期を迎えるにあたり、いかにフレイルを予防するかを考えることは、健康長寿を実現するために非常に重要です。以下にフレイル予防のポイントを列挙します。

▲健康長寿を実現するために必要な4つのポイント イメージ:polkadot / PIXTA

運動で体力を維持する

フレイル予防の最重要点は、筋肉量を減らさないことです。運動によって筋肉を積極的に使い、むしろ筋肉量を増やすことを目標にしましょう。といっても、無理は禁物です。けがをしてしまっては、まったくの逆効果ですので、慎重さも重要です。基本は歩くこと。楽しんでウォーキングに取り組みましょう。意識して動かすことで何歳からでも筋力アップは可能です。

栄養状態を良好に保つ

バランスよくいろいろな食品を食べるのは基本中の基本。なかでも意識して積極的に摂るべき栄養素は、筋肉を作る材料「タンパク質」です。肉・魚・大豆・卵・乳製品に多く含まれています。1日3食、生活のリズムを保って食事することが大切です。

1回の食事で十分な量が食べられない場合は、間食もOK。ヨーグルト・魚肉ソーセージ・かまぼこ・サラダチキン・小豆(和菓子)などがおすすめです。

社会と交流する

孤立すると意欲が低下し、精神的に何もやりたくなくなってしまいます。常に誰かと会話ができるように、ボランティア活動をするなど社会参加をする機会を作り、人との交流を保ちましょう。もしも、孤立が避けられないとしても、毎日、朝日を浴びて、好きなことをして、意欲的に毎日を過ごせるようにしましょう。

口腔ケアをする

栄養をとったり、呼吸をしたり、コミュニケーションを取ったり、口には大事な働きがあります。口腔の体操を取り入れ、舌・くちびる・ほお・のどの筋肉を意識して鍛えることで、飲み込み機能の維持・向上をはかり、むせ・誤嚥を防ぎましょう。肉など噛みごたえのある食品を食べるには、歯や歯茎の健康も重要です。