魚肉ソーセージは1949年に誕生。長期保存も可能なため、お茶の間で愛され続けロングセラーとなったが、1972年に18万491トンの生産量ピークを迎えたあとは減少傾向になった。そうしたなかで、魚肉ソーセージを生産している各社は開発を進め、現代の日本人の嗜好に合った形で生まれ変わっている。

ニュースクランチ編集部は、マルハニチロ株式会社のチルド食品事業部・綿引悠太氏に、魚肉ソーセージの最新事情についてインタビューした。

▲綿引悠太【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

若年層に向けた取り組みが業界の課題

魚肉ソーセージは、1930年代に農林水産省の推進により、魚の保存性を高めるために作られたという経緯がある。

「当時は冷蔵や冷凍の技術が発達していませんでしたので、物流面や家庭での保存性を高めるために、マグロを使った魚肉ハムが誕生しました。この技術を応用して、アジを使った魚肉ソーセージが、1949年に製造されたのが始まりと言われています。

その後、さまざまな企業が参入し、マグロやクジラを主原料とした魚肉ソーセージが多く作られました。当時マグロは非常に安価で、また夏に相場が大きく下がりやすかったので、それを解消する意味もあったようです」

その後、1960年代から冷凍すり身の技術が開発され、主原料はスケトウダラに移り変わっていった。

「原材料名に『魚肉』と記載されているのは、品質を保つためにさまざまな魚をブレンドしているからです。魚も季節により弾力や味に差が出ますので、毎回同じ配合というわけではないんです。多くは、スケトウダラ・タチウオ・エソ・ママカリなど、白身魚から作られています」

安くて畜肉の代わりとしても人気であった魚肉ソーセージだが、1972年に18万491トンの生産量ピークを迎えたあとは大幅に減少していく。直近2023年の生産量は、年間で4万815トンだ。

「生産量減少に歯止めをかけるため、各社がさまざまな種類のソーセージを作るようになりました。タンパク質やカルシウムなどの不足しがちな栄養素を補えるもの。以前のように魚をあまり食べなくなっているので、DHAをより効率的に摂取できるものなど、世の中の需要に合ったものが生み出されています」

魚肉ソーセージの生産量減少に際し、付加価値をつけて他の商品と差別化するため、マルハニチロが開発したのが特定保健用食品(以下トクホ)「DHA入りリサーラソーセージ」。2005年、魚肉ソーセージとして初めてトクホの認可を受けた商品だ。

「DHA入りリサーラソーセージを作っているマルハニチロ宇都宮工場では、もともと『DHA』を生産する工場が隣接しており、サプリメントを作る会社などに供給していました。これを使って、世の中に貢献できるものが作りたいと、新たな魚肉ソーセージの開発がスタートしました。

魚の油である『DHA』は中性脂肪が気になる方に適した油であることが様々な研究結果で明らかになっていました。その一方で、劣化(酸化)が早く、魚特有の香りがするのも特徴ですので食品に大量に添加するには難しい素材でもありました。

その為、効能と味のバランスが取れた現在の仕様や配合にいきつくまでに1年以上かかりました。加えて、トクホの認定を受けるための臨床テスト等を含めて開発から発売まで、延べ3年以上の月日がかかっています。研究員を専任でつけ、効果・効能などの学術的な面と配合・味わいなどの商品的な面を組み合わせながら開発しました」

魚肉ソーセージは常温で3~5か月ほどの長期保存が可能だが、安全性もしっかりと確保されている。近年では、その保存性を活かし、非常食としても需要がある。

「昔は保存料が使われる場合もあったのですが、今では缶と同じレトルト殺菌(120度で4分加熱)の手法が広く使われており、保存料は使用していません。また、魚肉ソーセージ特有のピンク色も、クチナシなどの天然系着色料によるものなので、安心して食べていただけます」

現在、魚肉ソーセージの消費者層は50代~60代が中心だ。子どもの頃から食べている層が、大人になっても食べているケースが多いが、今後は若年層を狙った商品も開発していきたいという。

「現在、イワシ・ノドグロ・鮭・ホッケ・タラコ・イカなどを使った、産地・魚種にこだわった商品を販売しています。“おつまみ”としての需要もあり、若い世代の購入者層も多いです。ただ、需要を拡大していかなければいけない状況ですので、機能面や栄養面、食べやすさにこだわった商品も開発しています。

また、今でも魚肉ソーセージのフィルムが開けにくい、というイメージを持っている方もいらっしゃると思います。弊社では、魚肉ソーセージの内装フィルムの開けにくさを解決するため、簡単に剥いて食べることのできる『1秒OPENおさかなソーセージ』も開発しました。昔のように歯でフィルムの端っこを噛まなくても大丈夫です(笑)」

こうした商品の登場により、2024年3月の魚肉ハム・ソーセージ市場の販売金額は5年間で最高値を記録した。畜肉に比べると価格もお手頃で、節約の観点からも選ばれやすくなっており、また手軽にタンパク質が摂取できる食品として再注目され、魚肉ソーセージ需要が拡大していると言えるだろう。

▲マルハニチロの「DHA入りリサーラソーセージ」

知らなかった! もっとおいしく食べる方法

携帯性・保存性に優れ、野外でもそのまま気軽に食べられる魚肉ソーセージだが、綿引氏によると、さらにおいしく食べられる方法があるという。

「じつは、魚肉ソーセージは温めるとおいしさが倍増します。外袋を開けてフィルムのまま沸騰したお湯に60秒ほど入れて温めると、魚肉ソーセージに含まれる油分が柔らかくなり、出来立てのようにふわふわでジューシーな食感に変化するんです」

▲最新の魚肉ソーセージ事情について教えてもらいました

料理が得意でないという方でも簡単にできるオススメの食べ方を教えてもらった。

「カップ麺や焼きそばなどの即席麺に、切った魚肉ソーセージを入れると、食感も増しておいしく食べることができます。実際に韓国では、麺類に魚肉ソーセージを入れて食べることがあるようです。また、魚肉ソーセージはおつまみとしても楽しんでいただけます。スライスして軽く焼き、マヨネーズと七味をつけて食べてもおいしいですよ。

また、ソーセージとしては朝食との親和性も高いです。不足しがちなたんぱく質も摂れますし、DHAは朝に食べるとより効果的(中性脂肪の低下を促しやすい)です。たんぱく質が摂れるということで、筋トレなどに励んでいる方にもオススメしたいです。また、お子さんのおやつとしても食べてもらいたいですね」

そのまま食べるもよし、簡単なアレンジレシピを楽しむのもよし。近年、その便利さとおいしさで再び注目されている魚肉ソーセージ。食べやすさや栄養面の進化に、今後も注目したい。

(取材:三郎丸 彩華)