コギャルブーム、プレイステーション発売、松本人志『遺書』発表、イチロー200安打、薬師寺保栄VS辰吉丈一郎、松本サリン事件……さまざまなことがあった1994年。ファッションやカルチャーにおいても、大きな変革期となったこの年に誕生したのが、Reebok(リーボック)のハイテクスニーカー「INSTAPUMP FURY(インスタポンプフューリー)」だ。
当時、販売された通称「シトロン」(初代モデル)は、火の玉を彷彿とさせる奇抜なデザインで世間をあっと驚かせ、NIKE「AIR MAX(エアマックス)95」など、他のスニーカーと共にブームを牽引し、今でも愛され続けている。2024年、誕生から30周年を迎え、同シューズの復刻モデルがリリース。ブームが再燃しているという。今回、インスタポンプフューリーの魅力を深掘りするべく、商品開発部・商品責任者の高嶋佑輔氏に話を聞いた。
有り得ない構成で制作された奇跡のスニーカー
1990年代中盤あたりから巻き起こったスニーカーブーム。当時の学生や大人たちは、派手で個性的なデザインと、高い機能性を誇る「ハイテクスニーカー」に魅了され、こぞって最新モデルを手に入れていた。
インスタポンプフューリーは、そんなスニーカーブームの火付け役といっても過言ではない。
当時は、インターネットも普及していないし、SNSもなかった時代だ。最先端のファッションやカルチャーを知るためには、雑誌や口コミで情報を得るしかなかった。特にインスタポンプフューリーに代表されるハイテクスニーカーは、店頭で見つけることすらできなかった代物である。
それなのに、なぜか近所の兄ちゃんが履いていて、それがなんだかカッコよく見えた。そんな“あの頃”の憧れが、インスタポンプフューリーには詰まっているのだ。
やはり、同モデルの特徴と言えば、その目を引くデザインやカラーリングだろう。
「インスタポンプフューリーは、構造的に非常にシンプルで、メッシュのテキスタイル部分、つま先とかかとを保護するパーツ、そしてブラッターでしか構成されていません。カラーブロックが組みやすいのもあって、(必然的に)派手なデザインになっていった……という経緯があります。
現在はブラックやホワイトなど、モノトーンのモデルもありますが、構成によって、シンプルにもなれるし、奇抜にもなれるシューズがインスタポンプフューリーなんです」
インスタポンプフューリーが誕生したのは1994年になる。
「例えば、ナイキさんだとエアマックスに代表される『エア(ソール部分のエアクッション)』、リーボックでいうと『ザ ポンプ(靴ひもがなくても履く人の足の形にフィットするポンプシステム)』などのテクノロジーに代表されるように、当時は、スポーツインダストリーのなかでも技術競争が巻き起こっていました。
そんななか、奇抜で斬新なデザインが目を引くシトロンが誕生したんです。シトロンは、もともとはランニングシューズとして作られたもので、履きやすくてシンプルで、当時の最新テクノロジーが盛り込まれている一足なんです」
そう。潜在的に「インスタポンプフューリー=ストリートシューズ」というイメージを持つ人もいるだろうが、同モデルは当時の最新鋭の技術が搭載された、れっきとしたランニングシューズなのだ。
スペックも非常に高く、リーボックが開発した「ヘキサライト」というハニカム状のクッション素材を内蔵、さらに、靴紐を結ぶ煩わしさを取り除くと同時に、フィッティング性能も高めるザポンプの技術を流用……と当時の叡智が詰め込まれている。特にソール部分は、かなり複雑だという。
「フォアフット(前足部)とヒール部分のミッドソールが分割していて、それをカーボンプレートでつないでるんですけど、シューズを作る者の観点からすると、これってかなり“やりたくない構造”なんですよ(笑)。まず設置面が少ないので、カーボンプレートに設置させるだけでも重労働になる。
かつ、それぞれ素材も違うので、屈曲がかかる部分に接着面があるので剥がれやすい……と、非常にデリケートな構造なんです。だから、これをランニングシューズとして作ったことがすごい。
今、皆さんがご使用されているランニングシューズって、 そもそもソールが分割してるものって少ないと思うんです。でも、インスタポンプフューリーはそれを実現させてしまった。非常に難易度が高いもののため、個人的なところを言ってしまえば、これが製品化されたってことが、ちょっと感動的なんですね」