“スカッと”を求めすぎる風潮には懐疑的

小林が生み出す作品に影響を与えているのは、いったい何なのだろうか。

「たくさんあるんですが、漫画家のジョージ朝倉さんの作品は“こんな言葉使いでもいいんだ、こんな描き方をしていいんだ”と思ったことは特に覚えています。今回の作品を書き上げてみて振り返ると、ジョージ朝倉さんの作品や、同じく漫画家の岡村星さんの『ラブラブエイリアン』という作品には影響を受けたと感じました。

本作でも、会話などはなるべく文体を変えず、いわゆる“小説っぽい”言葉使いはしないように気をつけました」

登場人物について、小林が決めていることがある。

「読者を“スカッと”させるためだけの悪役は書かないと決めています。どんな人にもいろいろな事情があるし、良い面もある。世の中に完全な悪人なんていないと思っているところがあるんです。人々が“スカッと”を求めすぎる風潮には懐疑的なんです」

▲「スカッとを求めている昨今の風潮には懐疑的です」

作中のエピソードには、自身や友人の体験をもとにしたものもあるという。

「マッチングアプリのプロフィール欄で、趣味の「渓流下り」を「淫売狩り」と見間違えたりとか、『M-1』で霜降り明星が歴代最年少で優勝したとき、同学年の4人は自分たちが優勝したような気持ちになった、という箇所など、自分自身の体験をもとにして書いているところも多い。また、自分だけでなく、これまで一緒に遊んだすべての女友達から多大な影響を受けた作品になりました」

どんな選択肢を選び取ったっていいじゃないか

小林にとって2作目の出版となった『たぶん私たち一生最強』。今後チャレンジしたいしたいのはどんな分野だろうか。

「書き終えてから、改めて読み返して“女性の性にまつわるエピソードをたくさん書いたな!”と自分でも驚いちゃったんです(笑)。それは、実際に書いていた当時の自分や登場人物たちにとって、等身大でホットな話題だったからこそなのですが、性にまつわることについては、自分としては今回で書ききった実感があるんです。なので次回作は爽やかでナチュラルな、老若男女に読んでもらえるものを書きたいなと思っています」

現在はアメリカで生活している小林。執筆環境も変化しているという。

「友人たちと物理的に距離が離れてしまった影響は大きいです。会話に刺激を受けて書くことが多かったので、会う機会が減ると、自分の仕事以外の物事や事象に対する解像度が下がっているなと感じることがあります。今までは取材をしなくても友人との会話や想像で書けた部分が、書けなくなってしまったので。

創作に関してはこれからが勝負だなと思いますし、執筆時間も増やしていきたいです。まだアメリカに住んで1年半ですが、もう少ししたらアメリカの風を感じさせるような作品も書けるんじゃないかと思っています」

小林自身の目標もある。

「個人的な目標としては英語を上達させたい。アメリカでは、課題図書が設定された読書会が地域の図書館で盛んに開かれているので、いつかはそれに参加してみたいです。英語で読んで、英語で感想をシェアするのが当面の目標です」

「読んで励まされた!」「最高」「登場人物たちが最強」と、宇垣美里さん、ヒャダインさん、宮島美奈さんら各方面からも大称賛されている『たぶん私たち一生最強』。

「著名人の方からも、もちろん読者の方からも、さまざまな感想をいただいてうれしいです。より多くの方に読んでほしいんですけど、やっぱり、同世代、アラサーの女性に特に届いてほしい。人生には、悩みも苦しみもたくさんある。そのなかでも、いろんな道を模索していいんだと、どんな選択肢を選び取ったっていいじゃないかと、自由な気持ちになってもらえたらいいなと思っています」

(取材:三郎丸 彩華)


プロフィール
小林 早代子(こばやし・さよこ)
1992年、埼玉県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2015 年、『くたばれ地下アイドル』で R-18 文学賞読者賞を受賞しデビュー。『たぶん私たち一生最強』が単行本2作目。X(旧Twitter):@sayoko_ba、Instagram:@sayoko.kobayashi