脚本・演出家の矢島弘一が主宰する演劇ユニット、劇団東京マハロ。『毒島ゆり子のせきらら日記』で第35回向田邦子賞を受賞、『コウノドリ〜命についてのすべてのこと〜』の脚本も担当した。ニュースクランチは、“女性の気持ちを描ける男性劇作家”として話題の人物にインタビューを敢行。

彼が手掛ける劇団では、身近な社会問題に切り込んだ人間ドラマを個性豊かな役者たちが具現化する。これまで扱ったテーマは、不妊治療・震災・いじめ・性同一性障害……と多彩。第28回公演『スープラに乗って』では、大阪ミナミで風俗嬢をしながら、シングルマザーとして一人娘を育てるスープラさんと周辺の人々の悲喜交々を描いた作品だ。

▲矢島弘一【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-INTERVIEW】

お宮の松の実体験がヒントに

――新作『スープラに乗って』の構想は、どんなことをヒントに生まれたのでしょうか?

矢島 : うちの劇団員に、お宮の松という、ビートたけしさんのお弟子さんだった人がいるのですが、一緒に飲んでいるときに彼の体験談が面白いと思ったのがきっかけです。彼は北九州出身で、お父さんがすごくしつけの厳しい人で、何かというとすぐ折檻されていたらしく、そういう環境から一刻も早く抜け出したいと、高校を卒業してすぐに「芸人になりたい」と実家を飛び出したそうなんです。

真っ先に、たけしさんのところへ行きたかったものの、お金がないからと大阪に寄り、スーパーで働いてお金を貯める日々。いざ東京に行こうとしたときに、童貞だった彼が、芸人になるならまず女性を知らなきゃということで、初めてソープランドに行ったと。そこからヒントをもらいました。

――まさか、そんな実話がベースだったとは。タイトルの「スープラ」というのが興味をそそります。

矢島 : スープラを知らない人は、チラシやポスターを見て、自転車のことだと思ったようです。逆にスープラのことを知っている人は「スープラってあの?」となるみたいで。興味を持っていただけるなら、それだけでもよかったと思っています。

――シングルマザーのスープラさんのストーリーには、親ガチャやペットショップのあり方など、現代の問題がたくさん詰まっていますね。

矢島 : ありがとうございます。今回、ストーリーの柱が決まって、もうひとつ何をやろうかと考えたとき、主人公は性の搾取をされていて、その娘はペットショップでアルバイトするなかで、命の搾取を目の当たりにする。その二つをつなげられたらと思いました。

そして今の世の中、誰もが何かしらの枠の中に収まっていますよね。劇場も枠の中に閉じ込められた空間なので、そんなところにお客様がリンクしてくれたらなと考えてます。

劇作家として女性や弱い人の味方でいたい

――東京マハロでは、女性が主人公の作品が多いように思います。

矢島 : 何度か男性の主人公にチャレンジしたことはあるんですが、やっぱり女性のほうが描いていて楽しいんです。近年は特にかもしれません。

――“女性の気持ちを描ける男性劇作家”として注目を集めていることに関しては、どう思われますか?

矢島 : プレッシャーは少なからずあります。女性全員の気持ちは到底わからないので、本当にわかっているかも定かではないですし、当然、自分の作品を見て傷つく女性もいると思います。自分が描きたいと思っている以上、女性の味方でいたいですし、大げさではないんですが、弱い人の味方でいたいということを、常に自分の作品では描こうと思っています。

――男性より女性のことを客観視できる、あるいは見ていて面白いなど、何か思い当たる節はありますか?

矢島 : 私には、8つと6つ年齢の離れた姉が2人いて、父親はそんなにしょっちゅう家にいる人ではなかったので、常に母と姉、その周りの女性たちに囲まれて育ちました。親の友人と家族旅行に行くと、そこも4姉妹だったりして、女14人に男1人とか、そういう環境だったんです(笑)。だから、なんとなくですが女性の動きや考え方の面白さは、常に身近にあったと思います。

――それで矢島さんの描く女性像は、女性を神格化していないんですね。親近感があります。

矢島 : うれしいです。男性が描くと、一般的には憧れだったり、きれいに描こうとするらしいんです。中学や高校時代も、周りが尾崎豊やBOØWYを聞いているのに対して、僕は松任谷由実と中島みゆきが好きでしたし、みんなが『ドラゴンボール』を見ている頃、吉本ばななや林真理子の本を読んでいたり。

中学校の友達が誰も連ドラにハマっていないのに、『男女7人物語』シリーズや、『君が嘘をついた』などを見ていましたから。女性が主人公の恋愛ドラマが好きで、ウキウキしたんです。不思議とそういう子どもでした。それが今、テレビドラマの脚本を手掛けているのだから、人生どうなるものかわからないですね。

――矢島さんから見て、女性とはどういうものなのですか?

矢島 : 全人類が女性から生まれますから、考え方によっては神様でしょう。その神様のような人が、ずるいことをしたり、寂しくなったり、喜んだり、悲しんだりすることに何か面白さ、尊さがあるのかな。

――矢島さんにはそう見えているんですね。

矢島 : はい(笑)。でも、今回の作品を最初はどう描くべきか悩みましたし、じつは10日前ぐらいまで全く後半が進みませんでした。その理由をとことん突き詰めて考えた結果、極端に言うと勝手に登場人物が喋ってくれる感じで進みだしたんです。自分では昨日までイメージしていなかった台詞を、彼女たちが喋りだす感じでした。