忘れられない石原のクソみたいな思い出

そんな優秀な男・石原は、優秀なのだがぶっ飛んでいる。親父みたいに自分に正直に、自分の思った通りに生きているという感じだろうか。

似ている二人だからこそ、俺は石原と親父をなるべく合わせないようにしていた。石原からは何度も、

「お前の気持ち悪い親父に会わせてみろ」

と言われていたが、俺は、

(この二人がぶつかったらどうなってしまうんだ……!)

と戦々恐々したため、二人を合わす気にはなれなかった。それこそめちゃくちゃ喧嘩になるか、はたまた……。

まあ、そんな石原とのエピソードで、忘れられないクソみたいな思い出が一つあるので紹介したい。

芸人になって少ししてからのこと。俺たち二人は芸人の先輩から草野球に誘われ、大井町で早朝から野球をすることになった。

当時、俺は母方の祖父母が大井町に持っていたアパートの2階に住んでいて、その日、朝早いこともあって、石原がうちに泊まりに来ていた。

母方のお婆ちゃんは、父方の破天荒婆ちゃんとは違い、めちゃくちゃ優しいお婆ちゃんで、その野球の日もわざわざ朝5時くらいに起きてくれて、

「せっかく相方くんが来てくれてるんでしょ。朝ご飯食べさせてあげる」

と、わざわざ俺たちのために、めちゃくちゃ朝早くから朝食を用意してくれた。

石原と共に1階に住む祖父母の家に向かい、リビングで祖父母と俺と石原、4人で朝食をいただくことになった。

食卓には、食パンとなんだか小洒落たサラダやおかずが並ぶ。

結構な量だ。わざわざ俺たちのために朝早く起きて、この量を用意してくれたのかと思うと感謝しかない。

しかし、眠い。いや、飯は美味しそうだが。しかし眠い。眠いのも紛れもない事実。

そんな眠気まなこで、ぼんやりと食パンを半分くらいかじった頃に、お婆ちゃんが、

「次のパン持ってこようか?」

と言ってくれる。お婆ちゃんがたくさん食べさせてくれるというのは全世界共通なのだろうか、なんてことを思いつつ、

「あー。うん」

と、また運ばれてきたおかわり食パンを食べる。また半分くらいかじると「次のパン持ってこようか?」と。

すると、途中で石原が突然、ブッと吹き出すように笑い始めた。

イヤな予感がした俺は、「なんだお前」と言うと、石原は、

「ダメだ! 我慢できません! 一言もしゃべらないジジイと、食パンをいっぱい持ってくるババァです!」

テメェ……! 

せっかく好意でやってくれてることに対して!

いや俺も思ってたけど。おじいちゃん喋んないなーって。

「いりません! 大人は朝、そんな食パンを食べません!」

確かにそうなんですけどね! この眠さでこの量は到底無理! てか、こんなお腹いっぱいで野球したら吐くわ!

石原は、自分の思ったことを思いっきりその場でぶちまけた。クソほど失礼な石原。……なのだが、

「そうよねー」

と、お婆ちゃんは笑う。

これだ。これが石原の力だ。いつもそうだ。石原がどんな失礼なことを言っても、破天荒なことをしても、大抵周囲は笑ってしまう。的を得ているのもあるし、発言がおもろいのもある。