自作のイラストを用いたフリップ芸やカード芸が印象的なピン芸人・田津原理音。今年4月、拠点を大阪から東京へ移し、11月16日には上京後、東京で初めてとなる単独ライプ『1+(いちたす)』を開催する。

『R-1グランプリ2023』でチャンピオンとなって約1年と半年。元々考え過ぎるという性格もあってか、この先について悩みに悩んで行き着いた単独ライブ開催という選択は、今後の彼にとっても非常に大きなものとなりそうだ。

※本記事は『+act.(プラスアクト)2024年12月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

ネタをみなさんに観てもらいたいんやなって再認識した

――東京では昨秋以来の単独ライブですが、このタイミングで開催しようと思った経緯を教えて下さい。

田津原理音(以下、田津原):今年4月に上京してきたんですけど、なんかねぇ…何がしたいのかがわからへんなってきてるんですよ。やりたいことは色々あるんですけど、漠然としてると言いますか頑張り方がわからないと言いますか。

テレビにももちろん出たいんですけど、出るためにどう頑張ればいいのか明確な答えがなさ過ぎて難しいなと思ってたんですけど、『R-1グランプリ』で優勝させてもらったからにはやっぱりネタを頑張ろうと。

ネタの頑張り方は人よりもわかってるし、ネタをみなさんに観てもらいたいんやなってことを再認識して。あと、明確に頑張れる目標を作りたいというのもあってやることにしました。やっぱりネタから逃げたくないなって。ネタは今のところ一生作っていきたいものですからね。

――そういう気持ちを改めて実感したんですね。

田津原:芸人になったのは『M-1グランプリ』でNON STYLEさんが優勝したのを観たことがきっかけなんです。その次の日の朝、母に芸人になりたいかもって話して。そこが始まりなのでネタはやっぱり好きやし、どんなに忙しくてもやっていきたいものなので活動として根付かせられたらなという思いもあります。

あと、今後ピン芸人としてやっていくにあたってのプチ重大発表的なこともしたくて、その発表の場が欲しいという意味もありました。

――色々と考えたと話されていましたが、マネージャーさんなどがいるとは言え、ピン芸人の場合、ネタはもちろん、方向性などもひとりで決めていかないといけないというのは大変なんでしょうね。

田津原:そうですね。しかも僕、やるぞって決心するまでに凄く遠回りしちゃうんですよ。いやぁ、やったところで合ってるかわからへんなとか考えてしまって。けど、考えるだけ無駄やということにも気づきました。

――ネタを観てもらいたいと再認識したということは、披露するネタは色んなバリエーションを考えているんですか?

田津原:色々とやる予定です。僕のサボりが出てしまわなければ!(笑)  僕、毎回ネタが間に合わないんですよ。大阪で昨年4月ごろにやった単独でネタが間に合わなさ過ぎて、開演してからも袖で最後にやるネタのフリップを描いておいてもらえません? ってお願いしたこともあって。それくらいギリギリまでやらないんですけど、今回は新しいことをたくさんやろうと思ってるのでサボっていられないですね。

――先程、お願いしたアンケートも時間をかけて考えられていたので、一つひとつの作業を丁寧にやりたい方なのかなとも感じました。

田津原:たしかに凝り性ではありますね。けど、無駄なところに時間をかけちゃうというか。例えば自分で80点ってわかってるけど、そこまで出せたら満足してもらえると割り切れる人っているじゃないですか。そういう人を尊敬してます。

僕はどうしても100点に近づけたくなって時間をかけてしまうから効率が悪い。完成しても(世に)出さずに明日もう1回見直してみようってなっちゃうんですよね。

――だからこそ、今回は早めに取り掛かろうとしているんですね。となると、具体的な構想はすでに頭の中にあるんですか。

田津原:なんとなくはあります。ただ、中身と準備物が凄くいるなと気づいてしまって。

――いいアイデアを思いついたとしても、実際に出来るかどうかはまた別の話だと。

田津原:そういうことはめっちゃありますね。機能的なこと、いわゆる機材的なことで舞台上で出来るのかとか色々あって。けど、みんな、そこを乗り越えて実現してるので頑張りたいです。

この1年半ずっと自分探しをしていた

――また、先程何をしたいのかわからなくなったと話されていましたが、詳しく聞かせて頂けますか。

田津原:昨年の『R-1グランプリ』で優勝させてもらって1年半経ったんですけど、どこか本気になれていないなと感じていて。もちろん僕としては頑張ってるつもりですし、常に本気なんですけど、いや、本気ならもっと違うことしてるはずやけどなと思ったりして、これで合ってるのかな? っていう迷いをずっと感じてたんです。

けど、単独が決まってからは(気持ち的に)楽になりました。月並みな表現かもしれないんですけど、僕、サイヤ人なんです。常に戦っておきたいタイプというか。ロマンチストというのもあるんですけど、青春が好きで。さっき『M-1』でNON STYLEさんの優勝を観て芸人になったと言いましたけど、優勝したあとに石田(明)さんがめちゃくちゃ泣いてて。

それを観てかっこいい、めっちゃ青春してるなと思ったんです。だからしんどいことも望んでいることと言いますか。もちろん嫌ですけど、楽しいことをするためのものやから頑張れるんですよね。

――そうなるとピン芸人として大きな目標である『R-1』優勝は叶った嬉しさはもちろんありつつも、叶ってしまったからこその喪失感もあったということですか。

田津原:そうですね。優勝の先まで考えてなかったというのもあるんでしょうけど、この先何がやりたいのかがわからなくてこの1年半ずっと自分探しをしていました。

いや、あるのはあるんです。趣味でカメラをやっていて大阪では芸人さんのフライヤーを作ったりとか会社からこういうのを撮ってほしいとお願いされたものを撮ったり、カメラの仕事もちょこっとしてたんです。

ネタで使うフリップも自分で描いてるんですけど、イラストを描くのもめっちゃ好きやし、洋服も好きで。そういった趣味も仕事にしたくて上京したんですけど、伸ばし方がよくわからないと言いますか。上京してはみたものの、僕がカメラをやってることも東京では知られてない。これ、どうすればいいんやろう。わからへんってなってしまったんです。

――そこでネタをもう一度頑張るという結論に至ったのは、何かきっかけがあったんですか?

田津原:僕と同じタイミングで、大阪から一緒にやってる(構成)作家さんが上京したんです。上京後も一緒にコーナーライブとかをやっていて、混み入った話を色々としていた時に『絶対にネタやったほうがいいですよ』みたいなことを言ってくれて。

僕のことをちゃんと観てくれてる人なので、そんな人に言われるんだからそうなのかなと考えるようになったんです。

ただ…ネタしか出来ないって思われるのはむっちゃ嫌なんです。絶対にテレビにも出たいですし、絶対に色んな場で活躍したい。最終的にはカメラもイラストも絵も全部やりたいです。そこを諦めたからネタをやろうという訳ではなく、今はネタかなっていうことですね。

田津原理音さんへのインタビュー記事は、発売中の『+act. (プラスアクト) 2024年12月号』に全文掲載されています。