ドジャースの8度目のワールドシリーズ制覇からはや数週間が経ったメジャーリーグ。毎日あった試合がなくなり、早くも”野球ロス”に陥っているファンもいるのではないだろうか。

しかし、メジャーリーグはオフシーズンも楽しめるのが魅力の一つ。昨年は大谷翔平選手がオフの主役として大きな注目を集めたが、今オフも未来の殿堂入り候補と言われるフアン・ソト選手がFA市場に登場するということで注目されている。

ソトがオフシーズンに注目されるのはこれが初めてではない。実は昨オフも、FAではなくトレードの目玉選手として日夜報道を賑わせていた。実際にトレードでパドレスからヤンキースへと移籍したのだが、それから1年近くが経った今、両チームのファンが納得する素晴らしいトレードだったと評価されている。そこで今回は、世紀の”Win-Winトレード”となった昨オフのブロックバスターを改めて振り返りたいと思う。

2対5のトレードでヤンキースに加入したフアン・ソト

ソトのヤンキースへのトレードは、昨年12月のウィンター・ミーティングで成立した。それ以前からトレードの可能性が高いと言われており、この2チーム間で交渉が行われていることは常々報道されていた。

ヤンキースはソトに加えてトレント・グリシャムの2人の外野手を獲得。パドレスはマイケル・キング、ランディ・バスケス、ジョニー・ブリトー、ドリュー・ソープの4人の投手に加えて、捕手のカイル・ヒガシオカをそれぞれ獲得する形で合意した。

2対5のトレードという部分だけを見ると、メジャーでは一般的なスター選手のトレードのようにも見える。実際、通常FAまで残り1年程度のスター選手を放出するチームは、再建中であることが多い。そういったトレードは、若手有望株が対価となるのが基本だからだ。

ナショナルズが2022年に敢行したソトのトレードは、まさにその典型例と言えるだろう。当時のパドレスは、打線強化のためにソトとジョシュ・ベルの獲得を狙い、ナショナルズは対価として5人の若手有望株を含む6選手を獲得した。

ところが、昨オフにパドレスが行ったソトのトレードは少し毛色が違うものだ。放映権の契約を失うなど財政状態が芳しくなかったパドレスは、積極的な資金投入を行っていたオーナーのピーター・サイドラー氏の逝去もあり、年俸総額を大幅に削減する必要に迫られた。

また、サイ・ヤング賞投手のブレイク・スネルを筆頭に3人の先発投手がFAとなったことで、先発投手の補強も急務という状況。ソトはチームで最高の打者であったが、3000万ドルを超えると予想されていた高額年俸の負担は重く、ソトをトレードすることで、年俸削減と即戦力先発投手の補強を同時に行うことを模索したわけだ。

このトレードの効果は両チームにとって絶大だった。

ソトは23年シーズンに投手有利の本拠地を持つパドレスでOPS.930を記録。左打者有利のヤンキースタジアムを本拠地とするヤンキースへ移籍すれば、さらに成績が向上するのではないかと期待されたが、その期待通りにキャリアハイとなる41本塁打を記録してみせた(実際のところ本拠地の恩恵はそれほど大きく受けていなかったが)。

シーズン当初から終盤まで安定した活躍を続け、wRC+(平均を100とした得点貢献度の指標)では150を割った月が一度もなかったほど。ヤンキースでは今季MVPを受賞したアーロン・ジャッジの活躍が印象的だったが、ジャッジが不振に陥っていた期間中も常にハイレベルな打撃で勝利に貢献していたソトは、ジャッジと並ぶヤンキース地区優勝の立役者だったと言って間違いないだろう。

また、ポストシーズンでもヤンキースの2009年以来、15年ぶりのワールドシリーズ進出に多大な貢献を見せた。こちらもジャッジが大不振に陥る中、ソトは常に出塁し続けたのはもちろんのこと、ガーディアンズとのリーグチャンピオンシップシリーズにおいては、5試合で3本塁打を記録。そのうちの1本は第5戦、延長10回での劇的な決勝3ランだった。

ソトとともにヤンキースに移籍してきたグリシャムの方は、レギュラーだったパドレス時代とは異なり、ヤンキースでは控え外野手の座に甘んじた。wRC+は2023年の90と同等の91と、打撃面で高い貢献はなかった一方で、ゴールドグラブ賞を2度受賞したセンター守備は健在で、不安定な出場機会でも平均以上の守備パフォーマンスを披露。

今季、センターを守ったジャッジは本来ならライトの選手だけに、このチーム唯一の純粋なセンターとして、ジャッジの守備負担を軽減することには成功した。