冠番組を持つためにジャケットを着た
「もっと人生を豊かに楽しみたい。 そのためには何か夢中になれる趣味があった方がいい!」という考えになりました――11月27日に発売し、わずか3日で増刷が決定した書籍『コカドとミシン』(小社刊)のプロローグで、コカドが語っている言葉だ。
ロッチといえばキングオブコント決勝3回出場、2015年ではファイナルステージ進出の経験も持つ実力派コント師。バラエティー番組でも活躍し、お笑い芸人としての地位は確立していたように思える。「人生を豊かに楽しみたい」と考えるに至った背景には何があったのだろうか。
「テレビに出始めて、10年ほどいろんな経験をさせてもらって、落ち着いた感じはありましたね。中岡くんのお父さんは、お笑いをやることに反対していたんですよ。中岡くんは一度、お笑いをやめていた期間があるんですけど、またやるとなったとき、中岡くんのお父さんから“10年は同じ仕事をやらないとあかん”と言われました。その言葉が僕にも残っていたので、10年間、お笑いで食べていけたな、と。そこで一区切りついた感覚がありました。
30代のときは、“40歳までにゴールデンとかで冠番組を持ちたい”という目標を持っていたんです。そのために試行錯誤していましたし、ロッチの見せ方にもこだわっていた時期があります。中岡くんのボケを引き立たせるために、僕はしっかり者に見えた方が良いと思って、数年間、ジャケットを着ていたこともあるんです。本当はそんなタイプじゃないんですけど」
コンビの戦略として、しっかりした人を頑張って演じたことにより、中岡さんのいじられキャラを際立たせることに成功した一方、目標に掲げていた「40歳までに冠番組を持つこと」は叶わなかった。しかし、そこで肩の力が抜けたことで多方面でポジティブな変化が起きた。
「ストイックにお笑いを追求するだけではなく、自分の人生を豊かにすることも大切にしようと思いました。ジャケットも脱ぐし、自分が本当にやりたいことを、今後やっていこうと。そこではじめたのがミシンでした。
ミシンをはじめたおかげで、ロッチとしてもバランスが良くなったと思うんです。それまで、無理してジャケットを着てやっていましたが、それではお笑いに対して、体重が乗りすぎていたと思うんです。“しっかり者に見えなあかん!”という気負いもあって、仕事への夢中の純度が下がってしまっていたんですよね」
バラエティー番組でも、自分たちの得意分野や、苦手なことがわかってきたと話すコカド。苦手なことよりも得意なことを、と無理しなくなった結果、上手くまわり始めたという。
「“自分に正直に、やりたいことをやろう!”みたいな。嘘をつかないで、本当に思ってることをそのまま言うようにしてから、僕自身も楽になったし、トークも前よりうまくいくようになったと思います。それは、“僕にはミシンがある”という安心感があるから、思い切って振る舞うことができるんだ、と思ってます。夢中になれる趣味があるからこそ、仕事でも無理なくフルスイングができる。本当にミシンをはじめて良かったと思ってます」
今こそロッチの名前がついた番組をやりたい!
来年、コンビ結成から20年を迎えるロッチは、今後、どんな状態を目指しているのか。理想の未来のなかにキングオブコントへの出場可能性があるか、おそるおそる尋ねると、キングオブコントへの思いを語ってくれた。
「キングオブコントに出なくなったのは、色々と理由はあるんですけど、審査員がダウンタウンの松本さんと東京03の飯塚さん以外、後輩になってしまったから、というのが1つあります。後輩の審査員からしたら、先輩の僕らの審査はしづらいと思うんですよ。みんな、“そういう気を遣わないで審査します”と言ってくれると思うけど、そう言わせてしまうこともしたくないんです。
僕は大好きな、ダウンタウンさん、さまぁ〜ずさん、バナナマンさんに、間近でコントを見てもらって、感想を言ってもらえたのが、何よりうれしかったし、すごく幸せなことでした。そりゃ出ている時は優勝したかったけど、キングオブコントは、僕にとってそういうものでしたね」
コンビ間で、今後について改めて話し合うことはないものの、毎週月曜日にYouTubeで生配信している「ロッチナイト」での会話が、今後の方向性をすり合わせる、良い機会になっているという。コカドが今後やりたいのは、冠番組。ただ、30代の頃とはちょっと違うそう。
「前までは“40歳までに冠番組を持ちたい”と言っていて、無理やったから諦めて、今度は人生を豊かにする方向に行ったら、NHKで『ロッチと子羊』という冠番組を持てたんです。それって多分、無理をしていた自分たちじゃなくなって、素の人間がそのまま出だしたから、というのも大きいと思うんです。
自分たちの名前がついた番組をやらしてもらって、やっぱりすごく楽しかった。その記憶があるから、今のこのスタンスになった二人で、名前のついた番組をほかにもやりたい思いがありますね。それはお笑いの番組じゃなくて、趣味の番組でもいい。たとえば、中岡くんは犬が好きやから、犬の番組とかできたら面白そうですね」
(取材:吉田 真琴)
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