バンドをやろうと思ったきっかけのライブ

CDにはそれ専用の気合が入る、という塩入が初めて買ったCDは何だったのか、気になって聞いてみると、

「一番最初に買ったCDは、シングルだったらポケモンの曲か、V6だったと思います。近所のCD屋さんで買いました。ミュージシャンになりたい! と思ったきっかけはスピッツですね。私、バンドをはじめたきっかけや、お笑いを好きになったきっかけも全部、小学校の時にできた親友の影響が強いんです。今でもその子とは仲が良いんですが、その子が明るい登校拒否で、土日に会うと、学校に行ってない1週間のうちに得たカルチャーを私に教えてくれたんです。そこで特に心奪われたのがスピッツでした」

ファンクラブにも入り、応募したライブツアーは仙台公演が当選したそう。

「アルバム『三日月ロック』のリリースツアーで、ちょうど夏休みだったんですけど、向こうの家族旅行に私も参加するかたちで、仙台まで連れて行ってもらって。私の中で、楽器を持っていても、持っていなくても、ざっくり全て音楽というカテゴリに入っていたものを、はじめてバンドという形で認識したのがこのライブでした。とてつもなく大きな音を聞いて、熱狂した人の渦に巻き込まれて、真ん中にいたはずなのに、いつの間にかギターの人の眼の前にいて、ということに、良い意味ですごく傷ついて。帰りの新幹線の中で絶対にバンドをやろうと思ったんです」

ミュージシャンを志したきっかけがスピッツのライブ。やはり、FINLANDS、塩入冬湖にとって、ライブはかけがえのないものであるようだ。

「ライブに対してこの5年間で憧れがすごく増した事に気づきました。うまく行かないライブがあったら、信じられないくらい、初心者のように落ち込みますし、その分、うまく行った時は本当に気分がいいです。ライブという行為に期待している部分は大きいかもしれません」

ツアーはいかに甘えずにできるか

最近は、ジャンルを問わず、様々なライブに出ているというFINLANDS。そこで気づいたこともあったそう。

「最近は色々なライブに出てるんです。対バン相手が女の子のアイドルだったりするライブも出ていて、そこではお客さんが自分を見に来たお客さんじゃないパターンももちろんあるわけです。でも、そういうライブに出ていて、どこで誰とやるかって良い意味で関係ないんだな、って気づけました。

なんか、よく“バンドっていつでも見られると思うなよ。見られるうちに見ておけよ”って言葉があると思うんですけど、私はそこにちょっと懐疑的で。“いや、いつでも見られるようにしておけよ”って思うんです。そのうち見られなくなるぞ、っていうのをちらつかせるのって凄く卑怯だと思っていて。そう思うんだったら、私がやれることっていつでも見られるようにライブにたくさん出て、良いなと思ってもらうことだと思ったんです」

アルバムを携えて、3月から5月にかけて全国9都市を巡るワンマンライブツアー「I HAS TOUR」を開催する。

「ツアーに関して言うと、FINLANDSの事を好きな人しかいない空間で、言ってしまえば甘えることができる状況の中、いかに甘えずにできるかって緊張感を持って挑みたいと思います。FINLANDSのライブを初見の人、100回目の人、どちらにも同じようにいいライブを見たな、と思ってもらうようにやりたいし、その緊張感はいいライブにつながると思っています」

塩入に今後の展望について聞くと、少しバツが悪そうに、こう答えてくれた。

「展望……それが立てられないからたしなめられることがあって(笑)、ただ、今欲しいものは今手に入れられればいい、と思ってるんです。20代から30代に変わる時に強く感じたことで、20代の時にあんなに欲しかったものが、30代になったら全然欲しくないって思うこともあって。それこそ、20代の時に“こんな風になりたい”と思っていたことが、今30代になって思い出すと全然魅力的に思えないこともありました。だから、今欲しいなと思っていても、来年もしかしたらほしくないかもしれない。今、現在の最善を尽くすので、って感じで、私がこの先考えられるのは、ツアーのセットリストくらいですかね」

最後に「今現在、欲しいものはなんですか?」と聞くと、こう答えてくれた。

「今は、力がほしい。強くなりたい。本当に強くなりたいんです。え? 漫画の主人公みたいですか(笑)? ちょうど今ヒロアカを見てるからかもしれないです(笑)。ただ、守るものができた時に、自分から手を下すことはしないけど、向こうから危険が迫ってきた時に、自分が悪者になってでも、守らないといけないので、今は空手をはじめたいですね。なんで空手かっていうのは、名探偵コナンの蘭ねえちゃんが空手をやってて、やっぱり役立つんだな、と思ったからです。もしかしたら影響されやすいだけなのかも(笑)」


プロフィール
 
FINLANDS
Vo.Gt 塩入冬湖( シオイリフユコ) を中心に 2012 年結成。2022 年に10 周年を迎え、周年記念ツアーのファイナルはKT Zepp Yokohama にて開催し、大盛況に10 周年をおさめた。
現在、正式メンバーは塩入冬湖のみで、ギター、ベース、ドラムにサポートメンバーを迎え活動。
また、塩入は adieu( 上白石萌歌)、Salyu に楽曲を提供するなど作家としても精力的に活動している。