約4年ぶりのオリジナルアルバム『HAS』をリリースしたFINLANDS。Vo.&Gt.の塩入冬湖に同作に込めた想いから、4年間の変化や、ライブの捉え方、ミュージシャンを志したきっかけまで、ニュースクランチ編集部では多角的に聞いた。

▲FINLANDS 塩入冬湖【ニュースクランチインタビュー】

ライブによって生かされている

「これまでは、“こういうアルバムにしたい”という構想を練って、デモ楽曲を作って、スタジオで肉付けして完成させて来ました。ただ、これまでアルバムとアルバムの間が4年も空いた事がなかったんです。今回は、4年の間でデジタルリリースしてきたものなどを含めたアルバムということで、コンセプトを決め込むよりか、潔く4年間のFINLANDSを皆さんに見ていただこうと考えました」

約4年ぶりのオリジナルアルバム『HAS』について、こう説明する塩入。ここ数年の活動を見ると、対バンやイベントを含め、多くのライブに出演しているのが目に留まる。

「ライブに重心を置いた、というのは確かですね。コロナでライブができなかったというのと、自分が産休をとっていてライブから離れていたので、やはり、FINLANDSも自分も、ライブによって生かされているな、というのを改めて感じたし、でも身体が思うように動かないのは凄く不自由で、自分のおもうようなライブができるようになりたいというのが発端だったんですが、それでも、2023年は過去一番くらい、ライブをやった1年でしたね」

4年ぶりのアルバムということで、その4年間は作品に消化されていると言えるのだろうか?

「ほかの媒体の方にもインタビューしていただいたんですが、消化されている、という事になりました。……いや、こう言うと他人事みたいに聞こえちゃうんですが(笑)、365日24時間自分自身である以上、自分で私ここが変わったとか、ここ変えたとか気づくのって難しくて。お子さんが生まれて楽曲が変わりましたね、とか言っていただくことで、自分自身で徐々に変わっていることにきづいたり、自分のこういう所が変化をもたらしていたんだなと気づく感じです」

この4年の間にFINLANDSはメジャーデビューも果たした。

「自分自身は一大決心みたいな、特別な感情はなくて。これまで作ってきた環境で、サポートメンバー、スタッフ含め、FINLANDSとして作りたいものを作れる環境で、新しい一手を打ってみるのも面白いかな、と思ったんです。こうして、新たなスタッフの方がFINLANDSの音楽を届けようと思ってくださってるのも嬉しいし、なによりFINLANDSをずっと好きでいてくれるリスナーが喜んでくれたのがとても嬉しかったですね」

塩入冬湖がときめく瞬間

出産前と後で楽曲づくりには変化したところはあるのだろうか、そう問うと「たしかによく聞かれます」と前置きしたうえで、こう答えてくれた。

「変化の話でいうと、作詞に関して出産前と後で変わった所はないんです。ただ、それよりもっと前の、曲作りへの考え方については変化しているのは感じます。たとえば、恋愛の曲をひとつとっても、恋愛のいざこざで悲しい、という曲じゃなくて、いかにこの恋愛をいかに諦めないで済むか、という風に考えるとか、そういう意識の変化が出てきました。言葉の使い方に関しては、やはり根底に好きな言葉の使い方というのがあるんです。違和感を感じていたいんです、言葉に」

言葉に違和感を感じていたい、という言葉自体に引っかかりを覚えたので、そこをもう少し詳しく説明してもらった。

「たとえば、“この言葉をこの言葉に接続して使うと凄く変だな”とか、そういうことに私は凄くときめくんです。そういうスタイルでの、歌詞の作り方に関しては変わらなかったかな。基本的に曲作りについては、言葉から音になっていくんですが、『ララバイ』という楽曲に関しては、作るのが凄く難しい曲でした。でも、この曲はサポートメンバーやエンジニアさんなど、曲にまっさらな状態で向き合ってくださる方からは“キャッチーだね”という言葉をいただきます。私はそれを聞いて“そうなんだ!?”って感じでしたね。そこがいつも食い違うんです、私の思うキャッチーは、キャッチーじゃない疑惑があります(笑)」

アルバムの曲順に関してもこう明かしてくれた。

「曲順は私が大きい部分で決めて、サポートメンバーやスタッフがここは逆じゃないですか? とか話し合うんですけど、1曲目はいつも自分で決めます。ララバイでいうと、“最初から決めてました、あなたです!”って感じ」

配信やサブスクが全盛のこの時代に、アルバム『HAS』はCDというフィジカルでもリリースされている、そこに想いはあるのだろうか。

「アルバムという形式そのものに強い想いはないのですが、CDという形式には想いはあります。やはり自分が初めて手にしたのはCDでしたし、CDを聞いた時にアルバムというのは一番心ときめくものだったんです。1曲目を聞いて“このあと、まだ10何曲も入っているんだ!”みたいなときめきとか、CDからMDに曲を焼いている間のその気持ちとかが色褪せずにあるので、CDになるっていうと、それ専用の気合もありますよね」

そして、CDの話に続いて、こう続けた。

「私は音楽的な人間ではないな、と自分では思っているんです。音楽を凄く好きな方って、この音の奥行きがどうとか、ドラムの響きとか、ギターのリバーブがとかおっしゃるんですが、私は正直全くわからないんです。私自身は高校生の時に好きなバンドの一発撮りみたいな、ごちゃごちゃした音が好きだし、昔のiPodにだけ入っている曲とか、音悪いんですけど、未だに聞くし、本当にときめくんです。それは私が多分言葉を先行して音を聞いているからだと思います」

『HAS』も音へのこだわりを感じる1作だ。

「この言葉に音が乗っているとか、そこにときめきを感じるというか。ノイズとか、今回のアルバムの最初に入っている通信の音とか、自分で家で作ったものを入れてあるんですが、自分の好きな音にこだわりがあるのであって、世の中的にそれがいい音であるかどうか、ということとは乖離しているかもしれないですね」