社会の闇と呼ばれるアンダーグラウンドを25年以上も取材し続けてきた男・村田らむ。そんな彼が取材中にひときわ恐怖を感じたのは【動物にまつわる話】だった。身近だったはずの動物たちと人間が織成す獣怖話をお届けする。

※本記事は、村田らむ:著『獣怖 動物たちが織成す狂氣の物語』(竹書房:刊)より一部を抜粋編集したものです。

お母さんはお婆さんの食事に毒を混ぜた

20代の女性に話を聞いた。

私は当時大学生で、話をするようになった同級生の女性がいました。

いつ会っても、彼女の目は死んでいました。気力がないというか、体力がない、エネルギーが足りていないようでした。

もともとすごく痩せていたのですが、会うたびにさらに痩せていきました。

彼女からは、家族の愚痴を聞かされることが多かったです。

彼女は、お父さん、お母さん、父方のお婆ちゃん、双子の姉の四人と住んでいました。お婆ちゃんの、お母さんに対する嫌がらせがすごかったそうです。嫁姑問題で片づけられるレベルのイジメではなかったそうです。

長年のストレスに耐えかねたお母さんは、お婆さんの食事に少しずつ毒を混ぜるようになりました。毒といっても、食器用の洗剤などで、急死するようなものではありません。お婆ちゃんは病気にもならなかったそうです。

 

さすがに本当に死んでしまう毒は混ぜられなかったのかもしれません。そのうちお母さんはイジメに耐えきれなくなって、家を出てしまいました。

お母さんが去ったあとの自宅は、彼女にとって決して居心地のいい場所ではありませんでした。

彼女のお父さんも、かなり厄介な人で、パチンコと病院に通うのが趣味の人でした。とにかく有り金はすぐに使い果たしてしまいます。

夜中に彼女の部屋のドアをドンドンと叩き、

「金をくれ!!」

とせびることも度々ありました。

彼女が大学へ進学するための奨学金にも手を出されたそうです。

「おばあちゃんの私に対するイジメもヤバいんだよね。お姉ちゃんにはめちゃくちゃ甘いんだけど、私には超厳しいの」

彼女はつらそうにそう吐き出しました。

双子といっても二人はあまり似ていなかった印象です。お婆ちゃんはお姉ちゃんにお金をあげたり、プレゼントをあげたりするのに、彼女に対しては無視。何かあるたびに、嫌味や悪口を言うのだそうです。

彼女が何か買ってきても、勝手に捨てられてしまう。食べ物を買ってきても捨てられるし、教科書やカバンなども捨てられる。挙句の果てにシャンプーやリンスまで捨てられて、彼女はこっそりお姉ちゃんのを使って髪を洗っていたそうです。

 

でも可愛がられているはずのお姉ちゃんも結構病んでいて、オーバードーズしたり、彼氏とリスカしまくったりして、危うい感じでした。

その家は家族全員が病んでいました。

「お婆ちゃんやお父さんに言われたことは全部忘れるようにしてる。記憶は消せばいい」

彼女は口癖のように言ってました。

でも続けて、

「でも記憶を消しても『嫌だ』っていう気持ちだけ残るのが辛い。理由もなく、辛さだけが溜まっていっちゃう」

と泣きながら呟いていました。

そんな家に耐えきれなくなって家出して、ひとり暮らししているお母さんの家に転がり込んだこともあったそうなんですが、しばらくは優しくても、

「悪いけど、もう一緒に住むのはしんどいから出ていってくれる?」

とやんわり追い出されたそうです。

お婆ちゃんの作るものは、一切食べられなくなった

彼女が家に帰るのは、もちろん行く場所が他にないからですが、もうひとつの理由は彼女が犬を飼っていたからです。

雑種の大型犬でした。耳が茶色で垂れているのが特徴でした。

お婆ちゃんもその犬には餌をあげていました。ただそれは可愛がっているわけではなく、実は乾燥剤や防虫剤を混ぜて食べさせていたんです。普通、犬なら臭いで気づきそうですけど、その犬は頓着せず食べて、それでいて体調も崩しませんでした。

なぜそのことを知ったかというと、本人から伝えられたからでした。

いつも彼女は無視されて、空気のように扱われるのですが、その日はお婆ちゃんはニコニコと彼女に話しかけてきました。

「あんたの犬、毒を入れても全然死なないんだよね。飼い主に似て鈍感なのかね?」

 

彼女は、お母さんがお婆ちゃんの食事に毒を混ぜていたのを思い出しました。

「お婆ちゃんも多分ご飯に何かを混ぜられているのを知ってたと思う。それでお母さんを恨んでいたのかもしれない。私に意趣返ししているのではないだろうか?」

辛そうに彼女は語りましたが、彼女が可愛がっている動物に毒を盛って苦しめているお婆ちゃんは楽しかったはずです。

「お婆ちゃんが犬に毒を混ぜてるのを知ってから、お婆ちゃんの作る物、一切食べられなくなったんだよね。普段は全然話しかけてこないんだけど、たまに『お食べ、お食べ』って機嫌よく笑いながら手作りのご飯を勧めてくることあるんだ。絶対毒が入ってるよね? そんなご飯喉を通らないよ。ああ……このままでは、私も殺されちゃう」

お婆ちゃんの料理が食べられないからといって、自分で買ったご飯はお婆ちゃんに全部捨てられてしまう。

お金は父親に無心されてるから、自由になるお金はわずかしかない。

彼女とはそのあたりであまり会わなくなってしまったのですが、たまに学校で見かける彼女はますます痩せていました。

痩せすぎて落ち窪んだ眼窩の中にある、妙にギョロギョロとした瞳で、疑心暗鬼に周りを睨んでいました。