社会の闇と呼ばれるアンダーグラウンドを25年以上も取材し続けてきた男・村田らむ。そんな彼が取材中にひときわ恐怖を感じたのは【動物にまつわる話】だった。身近だったはずの動物たちと人間が織成す獣怖話をお届けする。
※本記事は、村田らむ:著『獣怖 動物たちが織成す狂氣の物語』(竹書房:刊)より一部を抜粋編集したものです。
毎日散歩しているお爺さんと犬
30代の女性から話を聞いた。
私が小学生のころの話です。
毎日、犬を散歩させているお爺さんがいました。
60代後半~70代くらいだったと思うのですが、いつも機嫌が悪く、犬に向かって怒鳴り声を上げていました。
そしてことあるごとに犬をバシバシと棒で叩いたり、犬の脇腹を蹴っ飛ばしたりしていました。犬はいつも怪我をしていて、怯えた目をしていました。

そして時々、犬が変わりました。
おそらく、殴りすぎて殺してしまったんだと思います。保護犬をもらっていたのか、新しい犬は決まって最初から大きい犬でした。
犬が変わってもお爺さんの対応は変わらず、怒鳴り散らかし、殴っていました。
小学生の私は、小学生らしいまっすぐな正義感を持っていて、お爺さんに対して憤慨していました。
ある日、いつものようにお爺さんが犬を叩いているのを見てたまらなくなり、お爺さんに、
「犬をいじめるのをやめて!! 叩かないで!!」
と犬をかばいながら訴えました。
お爺さんは憤怒の表情になり、
「このガキが!! 躾がなってない!!」
と怒鳴りながら、犬と同じように棒で私を打ち据えました。
通行人に止められて大事にはいたりませんでしたが、その後も誰もお爺さんの犬イジメを止められませんでした。
お爺さんの家をネットで調べて知った衝撃の事実
しばらくして、私は家族の都合で引っ越しました。
大人になり、事故物件サイト大島てるをなんの気なしに見ていると、小学生時代住んでいた街が出てきました。するとお爺さんの家に炎マークがついていたんです。
「……事故物件になってる」
その炎をクリックすると、事件の全容が表示されました。
私が街を離れた数年後、そのお爺さんは妻を殴り殺していました。

動物への虐待が人間にも向いてしまったのか、奥さんへの暴力が犬にも行われていたのか……。
いずれにせよ、あのとき私が犬への暴力をやめさせていれば、事件は起こらなかったのでは? そんな考えが脳裏をよぎりました。
そして、うっすらと幸薄そうだったお婆さんの表情が頭に浮かび、強く無力感を感じました。