《第14話》「ガトーショコラ712kcalが、擬態ショコラなら170kcal! しかも旨い! バレンタインチョコでヤセる女の末路」
私は、仕事の合間に来たコンビニで立ち尽くした。
いや、正確には、コンビニのチョコレートコーナーの前で立ち尽くした。
もうすぐ2月。
バレンタインデーという悪しき習慣が近づいてきたのだ。
前々から、この時期は会社でやっすいチョコレートを配るようにしている。
この“安い”というのが実は大きなポイントだ。
そもそも、なぜ私がこの時期にチョコレートを配るのか。
それは私に“得”をもたらすためだ。
ちょこっとチョコを渡すだけで人間関係が良好になるのなら安いものである。
なんだかんだどんなものでもチョコを渡すと喜んでくれる人が多いし、不思議とそれは渡す人の年齢が上がるにつれ喜んでもらえる度合いは上がっていく。つまり、偉い人であればあるほど、渡すと喜ぶのだ。
小さな費用で私の好感度をほんの若干上げ、その若干の好感度は、今後ほんの少しだけ私に得をもたらしてくれる可能性がある。
そんな打算チョコには、毎年必ず手紙をつけて
「ダイエット中なので、お返しはご遠慮させてくださいませ」
と、書き添える。
もちろん毎年ダイエットをしているわけではない。
が、これはお返しを“絶対に”もらわないためのメモでもある。
万が一、気を遣われすぎて高額なお返しをもらおうものなら、その分今度はこちらが仕事などで返さなければいけなくなり、
せっかく好感度を若干高めるためにやったのに、めんどくさいことに巻き込まれる可能性が高まる。
そして、お返しを受ける最大のデメリットは、他の社員からの目線だ。
お返しが高額であればあるほど「媚びやがって」など、なんの得にもならない目線を向けられる可能性が高まってしまう。
そうなると、若干の好感をあげ“得”をもたらすために渡す打算チョコは、もはや収支で言うと大きなマイナスになってしまうのだ。
だから、なんとしてもお返しはもらわないようにしなければいけない。
だから“安い”必要があるのだ。
「このくらいのものならお返し渡さなくていいか」
と相手に思わせなければいけない。
だから毎年お返しはもらわないように、私だけがやっすいチョコをあげるだけで終わるよう、細心の注意を払いつつ、この時期を乗り切る。
が!!!
今年は、ガチでダイエットをしている。
いつもは嘘で「ダイエット中なので、お返しはご遠慮させてくださいませー」などと書き添えるが、今年だけはマジだ。マジガチだ。
だからマジで本当にガチで全くお返しはいらない。
いや、そもそも、今年はもっと問題がある!
私がダイエット中で量を我慢して食べているチョコを、なんでバレンタインデーだからって人にあげなければいけないんだ。
確かに、決めたカロリーの範囲内で、ちょこっとチョコは食べているんですよ?
完全に我慢しているなんてことは全然ないんですよ?
なぜなら私のダイエットは、いかに楽して痩せるかがコンセプトですからね?
でも!! でもですよ!!
それでも、今、大量のチョコを見ると絶対……
「あー、もうこれ全部自分で食ってやろうかな」
という、謎の破滅的思考に支配されるに違いない。
せっかく徐々にではあるが痩せてきているのに!
そしてもっと問題なのは、そんな破滅的思考の中、チョコを渡すとなると、私は渡した相手に……

と言う、非常に理不尽な思考を抱えることになる。
あー。