ワールドクラスのサッカー選手として一時代を築き、Jリーグのヴィッセル神戸でもプレーして日本を沸かせたアンドレス・イニエスタ氏。そんな彼があるお店に来店して現場は大騒ぎに。温和なイメージのイニエスタ氏が姿を現した意外なお店とは……?
浅草のパチンコ前にイニエスタ選手が来た!
コロナ禍後に色濃くなった「日本旅行ブーム」で盛り上がりを見せる、都内有数の観光スポット、浅草。雷門でおなじみ「浅草寺」や、せんべろ屋台が立ち並ぶ「ホッピー通り」、電気ブランで有名な「神谷バー」や、ビートたけしが下宿していたことで知られる「東洋館」などなど、そこはかとなく漂う「和モダン」の雰囲気が独特な人気エリアです。
昨年12月、そんな浅草の目抜き通りにあるパチンコ屋さんの店先に、アンドレス・イニエスタ氏をはじめとする世界的人気サッカー選手たちが密かに「来店」したのを、皆様はご存知でしょうか。「ウソだろう」と思うような話ですが、これは実際に起きた出来事。こちらの画像をご覧ください。

前述のイニエスタ氏のほか、ロベルト・カルロス氏、ファビオ・カンナヴァーロ氏、そしてシャビ・エルナンデス氏の姿が! この錚々たるスターたちが立つのはイタリアやスペインの何処かではなく「浅草ロックストリート(六区通り)」のほぼ中央に位置するパチンコホール「アミューズ浅草」の店先だというから、ファンにとっては衝撃の画像ですね。

これは「アミューズ浅草」の運営会社が彼らが出場する試合である「EL CLASICO IN TOKYO」のメインスポンサーに就任していたからこそ起きた珍事であり、この出来事は大手のニュースサイトなどでも大きく取り上げられました。
なので「パチンコ屋さんに世界的スターが来店した!」とだけ覚えている読者の方々も多かろうと思われますが、しかしこの事件(?)、現場となった場所を知れば知るほど「え、こんな場所にイニエスタが!」と、その凄さがさらに分かる二重底のようになっています。少し解説しましょう!
「エロス」と「笑い」が混在するロックストリート
「アミューズ浅草」のすぐ隣には日本の漫才・演芸・落語などに欠かすことができない超重要な建物があります。お笑いに興味がない人でも何となく外観くらいは見たことがあるであろうこちら、正面には「浅草演芸ホール」と書かれており、正面右には「浅草フランス座演芸場【東洋館】」と書かれていますね。


はたしてこの建物を指す時、どっちで呼ぶのが正解なのでしょう?
はい、この建物の呼び名は地元民の間でも別れており、お年寄りは「フランス座」、中年層は「東洋館」、それより若い人々は「演芸ホール」と呼ぶ人が多い印象です。
この呼び名の定まらなさは、現在一階部分を「浅草演芸ホール」として落語の寄席に、そして上階を漫才その他の演芸の場である「東洋館」として営業しているからというのがまずありますが、それ以前に、建物が歩んできた歴史の変遷が強く影響しています。
そもそもこの建物は戦前にストリップ劇場として開業しました。
当時の名は「フランス座」で、これはなんとあの文豪・永井荷風(ながい・かふう)の名付けであることが知られています。
荷風は当時、これまた現・アミューズ浅草の場所のすぐ近くで営業していたストリップ劇場「ロック座(※現在も営業中)」の熱心な常連であり、その縁で新しくオープンする劇場の名付けの相談が舞い込んだというエピソードがまことしやかに語り継がれています。

気難しそうな文豪とストリップ。いかにもイメージが合わなそうに思えますが、実は荷風は「(秘蔵版)四畳半襖の下張」という、昭和の文芸史に残る官能小説を遺していることでも有名。
こちらは荷風の作品か否かで大裁判になり本人は最後まで「自分の作品ではない」と否定していたそうですが、実際に読むと流れるような美しい文体がいかにも荷風の作でありエロスというよりも高尚な文学に近い。
誰がどう読んでも永井荷風の名著なのに、逮捕されるからということで本人がそれを否定するという歯がゆい構図に一石を投じるべく、「火垂るの墓」の野坂昭如が勝手に再出版しそして逮捕されたという珍事も有名ですが、とりあえずこの話は文豪・永井荷風がフランス座を名付けたというエピソードに、何とも言えない深みを与える話でしょう。
