わずかな希望だったHKT48

そんな時、HKT48のオーディション開催を知った。

病気で苦しい日々の中、画面越しに見てきた彼女たちの輝く姿に、私は今まで何度も救われてきた。いつも笑顔で汗を流しながら全力で踊るその姿に、自分もあんなふうに身体を楽しそうに動かせたらどんなに幸せだろうと強く憧れていたのだ。

知らせを見た時、自分の未来はもうここにしかないのではないかと思った。舞台に立つ彼女たちのように自分も変われるのではないか。何も持たない自分でも、同じように苦しんでいる誰かの支えになれるのではないか。そんな勝手な思い込みが心に芽生え、気づけば応募を決めていた。

行き場を失った日々の中で、わずかな希望が見えた気がした。

ちょうど進学の選択と重なる時期でもあったため、ついに退学を決め、この道に懸けると決めた。合格以外は認めないと自分を追い込み、体調の不安などよぎる暇もなく、ただ目の前の挑戦に全力を注いだ。

私は特別な才能を持っていたわけではない。歌もダンスも未経験で、身長は高く、声は低い。あらゆる面で典型的なアイドル像とはかけ離れている。オーディションに合格した理由も、担当者によれば「踊りは上手くなかったが、目に“絶対に受かってやる”という気迫を感じたからだ」という。

アイドルとしての日々は、決して容易なものではなかった。病の影が常に背後にあり、その存在に足を取られるたび、周りとの違いに心を曇らせた。気づかれぬよう必死に取り繕いながらも、目の前の課題ひとつさえ思うように越えられない。歌も踊りも不器用で、ただ必死に食らいつくしかなかった。

気がつけば走る先も、その意味も見失いかけ、自分だけが別の流れに押し流されているようで、いつか胸に抱いていたはずの想いは次第に輪郭を失っていった。

それからは、あてのない道をただ歩き続けるような日々だった。どこを目指せばいいのか分からないのに、立ち止まることだけは許されない気がした。

私はこの子のためにアイドルになったのだ

HKT48は、福岡の専用劇場にて日々公演を行っている。公演の最後には必ず「お見送り」がある。

この「お見送り」は公演を締めくくるもので、本編のパフォーマンスとは別に、メンバーが観客へ直接感謝を伝える場だ。

公演が終わると、出演メンバーが横一列に並び、その前を、観客は列を作って立ち止まらず順番に通過していく。

メンバーと観客の間には一定の距離があり、握手などの接触は行われないが、声をかければ届く程度の近さなので、簡単な挨拶や言葉のやりとりは可能だ。

多くの場合、メンバーが「ありがとうございました!」と声をかけ、観客も短く返す。

そのわずかな時間の中で、私は観客の態度や表情、声の調子から、その日の公演がどう受け止められたかを測っている。

そんなある日のことだった。

公演が終わり、いつものように私はお見送りで観客を迎えていた。その日は、私にとって劇場公演出演100回目を迎える特別な日だった。お見送りでは、多くのファンの方から「おめでとう」と声をかけてもらっていた。その時、列の中に小さな影が見えた。中学生くらいの女の子だ。

「ありがとうございました。」と声をかけると、彼女はぱっと顔を手で覆った。そのまま流れる列に合わせて進んでいってしまった。私は動揺し、何も言葉をかけることができなかった。

その日の夜、私のもとに一通のメッセージが届いた。最初は送り主が分からなかったが、文章を読み進めるうちに、あの女の子からのものだと確信した。

「今日初めてお会いできて嬉しかったです。私も同じ起立性調節障害で鈴雅さんからたくさん元気をもらって、今日会えた時に感極まって泣いてしまいましたが本当に楽しい時間でした!本当にありがとうございました!!」

ほんの数行だったけれど、その言葉を読んだ時、私ははっきりと思い出した。

私はこの子のためにアイドルになったのだ、と。

誰かの希望になるためにアイドルになったのだ。かつての自分のように未来を見失い、苦しむ人に手を差し伸べたかったからだ。「生きていていいんだよ」と伝えたかったからだ。

かつては手探りでしか感じられなかった自分の存在を、今では確かに感じられる。過去の痛みも喜びも抱えながら、それを力に変えて表現し続けたい。私にそんな器があるのかは分からない。けれど、それでも誰かに届くように、とにかく足掻くしかない。

今回、そんな想いをこめてエッセイを書くことになりました。拙い文章かもしれませんが、この広い世界のどこかで、たった一人でも、誰かの心に触れ、寄り添い、救いへと繋がることを願っています。

▲梁瀬鈴雅(HKT48)連載「鈴の音」 第一回

次回のHKT48 梁瀬鈴雅「鈴の音」は、11月末更新予定です お楽しみに!!


プロフィール
 
梁瀬 鈴雅(やなせ・れいあ)
加入期 6期生 2022年5月
ニックネーム れいあ
生年月日 2006年6月29日
血液型 B
出身地 神奈川県
身長 170cm

趣味・特技
音楽鑑賞・楽器演奏・楽譜、楽器集め・ゲーム・フィールドホッケー/約30種類の楽器を演奏できること・努力・常磐津

メッセージ
自分自身がHKT48の元気と明るさに救われた経験があるからこそ、私も誰かに元気を与えられる存在になりたいと強く思っています。私のパフォーマンスで誰かの心を動かすことができるよう、常に全力で、全身全霊で頑張ります。ぜひHKT48劇場に会いに来てください。絶対に後悔させません!

梁瀬 鈴雅 ​HKT48 公式プロフィール