司会者として数多くの番組で活躍している東野幸治。冷淡にも感じる言動から、時に“人の心を持っていない”や“サイコパス”と評されることが多い彼が、これまでに出会った“変な”吉本芸人31名のエピソードを綴った著書『この素晴らしき世界』(新潮社:刊)は、1カ月を待たずに重版決定と大きな話題を読んでいる。

人によっては欠点と捉えられてもおかしくない人の暗部や人間性に、好奇心と探究心を持ってぐいぐいと斬り込んでいく。文章から感じるのは、面白さに対する瞬発力と洞察力、そして鋭すぎる嗅覚と的確な表現力。インタビューの中でぶつけた“芸人”への素朴な疑問にも、ハッとするような言葉を返してくれた。

※本記事は、『+act. ( プラスアクト )2020年 6月号』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

書くことって喋る感覚と近い

ーーまず、連載を始めることになったいきさつを教えて頂けますか?

東 野 パソコンをほんまにちゃんと使いたいなと。(ブラインドタッチでキーボードが)打てるようになりたくて、連載の仕事があれば無理やりでも出来るようになるんちゃうかなと思っていたら、『週刊新潮』さんでやらせて頂けることになったんです。内容は気楽に書けるものがよかったというか。身近な芸人さんがテーマやったら、ブラインドタッチに重きを置けるかなと思ったんですよね。

ーー結局、ブラインドタッチの練習は。

東 野 ……。しなかったです(笑)。(2013年に)『この間。』(小社刊)っていうブログに載せたエッセーの本を出した時、縦書きの設定をしてもらったんですけど、今回それがどうしても出来なくて。

ーーそれってWordの設定ですかね?

東 野 多分そうだと思います。けど、それさえわからなったので完全に諦めて、結局スマホで書きました。誤字脱字とかおかしい言い回しは全部、編集のプロにこっそりと直してもらって体裁を整えたので、僕は原型をぶつけただけです。書き直しは1回だけ。宮川大助・花子さんの回だけ、編集者の方に文章のスタイルが違うと言われて。えっ? と思いましたけど、統一感がないと言われたので書き直しました。もうね、書いたものは全部、スマホから削除しました。メモ書きとかもきれいにして、僕の持ち物からは完全に消えました。

ーー手元に全く残してないんですか?

東 野 はい、もう跡形もないです。本は家にもないですしね。なんせ読み返してませんから……はははは! 申し訳ないなぁと思いますけど、書くことって喋る感覚と近いというか。劇団ひとりは文章を書く時、この言い回しとかこの1行にどの言葉を入れるのか凄く悩むと言ってたんですよ。それはプロの書き手の意見であって、僕にはそういうのが全然ない。同じ人について書くとしても全く違う感じにも書けてしまうし、直してるとキリがないなと思ったので、その時思ったことをそのまま書きっぱなしにしたんです。ただ、連載を読んで下さっている方にも買って頂くために多少のプラスアルファとして、みなさんにそれぞれの近況を書いて頂いたのと極楽とんぼの加藤(浩次)君のことについて書いて。キングコングの西野(亮廣)には、僕について書いてもらったんです。

ーー喋るように書かれたということですけど、書くこと自体への苦しみは一切なかったですか。

東 野 最後のほうですかね。えぇ……まだ書かなあかんの? めんどくさいなぁって思ったのは(笑)。最初は書きたい人がいっぱいいたんです。けど、だんだんいなくなるじゃないですか。ベテランの人も書きたいけど許可を取ったりするのがめんどくさいなぁとか思い始めると、後輩を書くほうが楽やったりもして。とにかく30人について書いたら終わりにしようと思っていたのでゴールを目指して書いていくんですけど、だんだんストックがなくなっていきました。結局、一度も締め切りを落とすことはなかったですけど、所詮タレントなんて楽してお金を稼ぐことに味を占めてますからね。僕には苦労することや壁にぶち当たることをやり続けるみたいな気持ちが、あんまりなかったということでしょう。もう十分書いたので、誰かにバトンを渡したいですね。なんせ吉本には6000人も芸人がいますから。

ーーガンバレルーヤ・よしこさんの回で、芸人として大事な要素はどこかふざけているところ、どこかなめているところだと書かれていたのが印象的でした。

東 野 やっぱりふざけてる人って面白いですよね? 芸人はみんなどこか変ですし、このふたつって要素という意味では大事なんじゃないかなと思います。このご時世、どうなっていくかわからないですど、『M-1グランプリ』とかみたいな賞レースで優勝や決勝を目指しているだけが芸人やったら、もしかしたらこの本に書いたような変さって出てこないのかもしれへんなって。芸人って全員が全員、面白かったらダメだと思うんですよ。面白い人もいれば、まあまあ面白い人もいる。で、あんまり面白くない人もいるからこそ、(芸としての)面白さが出てくるんじゃないかなと思うんです。例えば5人のうち4人が面白くてひとりだけ面白くなかったとしたら、その面白くないひとりがボケになって、結果そいつが面白いってことになりますからね。そういうのがいいなと思います。


東野幸治さんへのインタビュー記事は、5月12日発売の『+act. (プラスアクト) 2020年 6月号』に全文掲載されています。