月曜の朝、通勤電車で気分が悪くなり、途中下車してホームのベンチに座り込んでしまった本編の主人公――晴野ひなた。そのとき彼女に声をかけてきた“謎のおじさん”は、まさかの医師でした。あまりの聞き上手ぶりに、ひなたは最近の自分のいろいろな不調について話します。それをひと通り聞いた“おじさん”が言ったことは――。
ところで、いつも朝は気持ちよく起きられてる?
「医者なんです」
という言葉に思わず、立ち止まってしまったのは、突然の汗に動悸にめまいに悪寒に……、とにかくさっき突然訪れた症状に、私は少なからず不安を感じていたからかもしれません。おじさんは続けます。
謎のおじさん 「こんなところに、しゃがみ込んで見るからに具合が悪そうだから……」
ひなた 「急に体調が悪くなって……」
謎のおじさん 「急に?」
ひなた 「そう、満員電車で圧迫されて、胸がザワザワして、ギュゥゥッと締めつけられて、めまいや、動悸や……」
おじさんはとても聞き上手で、初対面にもかかわらず、信じられないくらいにいろいろと話す自分がいます。ひとしきり話し終わると、おじさんは尋ねました。
謎のおじさん 「夜はよく眠れてる?」
そう言われて考えてみると、ここのところちゃんと眠れていないような気がします。
おとといなんて、目覚ましが鳴る1時間も前に目が覚めてしまったのです。こんなことは、今までにないことでした。
もう眠れない気がしたので、出社の準備をしようとしますが、身体が全然言うことをきいてくれません。起きようと思っても、身体がずっしりと重い。ベッドのへりに座るだけで精いっぱい。そのまま目覚ましが鳴ったのを合図に、なんとか準備をして、はうように家を出たことをおじさんに伝えました。
謎のおじさん 「なるほど……。ところで、いつも朝は気持ちよく起きられてる?」
ひなた 「目が覚めた瞬間、お腹の上に砂袋が乗っているような感じがすることが時々あって、そんな日はとくに起きられないんです」
ひなた 「朝起きてからずっと、ワッサワッサと胸のなかで何かが動いているようなときもあるんですよ」
ひなた 「心臓と肋骨の間の狭い部分に膿が溜まっているような違和感で、怖くなって近所の病院で診てもらったんです」
謎のおじさん 「結果はどうだった?」
ひなた 「異常なしだと言われたんですけど、やっぱり何か内蔵の病気じゃないかと心配しているんです」
謎のおじさん 「そうなんだ……」