こころを治すクリニック。心療内科ってやつだよ
ひと通り話を聞き終わってから、おじさんはあっさりと言いました。
謎のおじさん 「それは、きっと内臓の病気じゃないね」
謎のおじさん 「おそらく、こころがちょっと弱ってるんじゃないかな」
ひなた (こころが弱っている?)
“こころの問題”なんて考えたこともなかったので、私は驚いて聞き返します。
ひなた 「え? 疲れているだけじゃないんですか?」
ここでおじさんはキッパリと告げました。
謎のおじさん 「いや、メンタル不調かもしれない。今度うちの診療所に来てみてよ」
ひなた 「診療所って……」
謎のおじさん 「こころを治すクリニック。心療内科ってやつだよ」
おじさんはサラッと答えます。
私は、あわてて否定しました。
ひなた 「私が心療内科? 大丈夫ですよ」
謎のおじさん 「いやいや、こころが弱っていて、身体に症状が出始めている気がするから。これは放っておかないほうがいい」
ひなた 「いやいや、何を言ってるんですか? 私が? メンタル? 勘弁してくださいよ」
謎のおじさん 「誰でも、みんな最初はそう思うんだよ。事実、体調が悪くなって、こうしてしゃがみ込んだりしてるでしょ」
ひなた (たしかに……。でもそれは疲れ……。こころって?)
黙り込んでしまった私に、おじさんはたたみかけます。
謎のおじさん 「誰にでもあるんだよ。こころが骨折するようなものだから」
謎のおじさん 「こころも、知らない間につまづいたり転んだりして、運悪く骨が折れてしまうようなことがあるんだよ。これは誰にでも起こりうることなんだ」
謎のおじさん 「だからさ、心療内科と言っても、かまえなくていいんだよ」
そう言うおじさんの顔を見ながら、私はここ最近の自分を振り返りました。
- そう言えば、少し前から気分が乗らないようなときがよくあった
- 1日中、胃が痛くてしかたがなかったこともある
- 朝、起きられない自分がイヤで自責の念に押しつぶされそうになったこともあった
- なぜか、急に涙が出ることがあった
- わーーーーっと叫び出したくなるときがあった
ここ最近のさまざまなことが、私の脳裏を行ったり来たりします。ハッと我に返った私は答えます。
ひなた 「かまえなくていいって言っても、やっぱり心療内科って言われると……」
おじさんは、そんな私を無理に説き伏せようとせず、相撲で勝負が決した相手を最後にそっと寄り切るかのように、おだやかに言葉を続けました。
謎のおじさん 「まぁ、駅のホームでナンパされた人とお茶するくらいの気持ちでおいでよ」
ひなた (それも十分、私にとってはハードル高いんですけど……)
こうして私は、自分には絶対に縁がないと思っていた心療内科の門を、人生で初めてくぐることになったのです。
『「薬に頼らず、うつを治す方法」を、聞いてみた』は次回8/13(木)更新予定です、お楽しみに。
※本記事は、亀廣聡・夏川立也:著『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らず、うつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。