「薬の自動販売機」と化した、一部の心療内科クリニックの現状に憤りを隠さない、亀仙人こと亀廣聡医師。気を落ち着けるようにお茶をグッと飲み干してから、ある50代の女性患者の例を話します。勤め先の産業医の判断と紹介で、亀仙人のクリニックを訪れて診察を受けたところ、10年近く抗うつ薬を処方されていた女性への診断は……。
“軽いうつ病”と診断され、薬を飲み続ける日々
亀仙人 「ひなたちゃん。そもそも自分で、うつ病かもと思いクリニックを訪れて、その通りに診断されて『うつ病って何ですか?』なんて、聞く人っていると思う?」
ひなた 「……いないでしょうね」
亀仙人 「さっきホワイトボードに書いた6種類の中で、うつ病以外の病名を告げると、説明して納得してもらうだけで、どれくらいかかるだろうか」
・大うつ病(うつ病)
・抑うつ体験反応(神経発達障害との併存症として広義の適応障害を含む)
・症候性抑うつ状態
・統合失調症の抑うつ状態
・薬剤性抑うつ状態
亀仙人 「それに長い間、うつ病は抗うつ薬と安静が基本と言われてきたから、処方と安静の指示だけしていれば、ほとんどの患者さんは納得してくれるからね」
亀仙人 「うつ病ではなくても、抑うつ状態を訴えるという理由だけで、うつ病にされてしまう。これが心療内科の現状だよ」
そう言ってから、亀仙人は湯のみ茶碗のお茶をグイッと飲み干しました。そして、実際に亀仙人のクリニックを訪れた、ある患者さんの例を話してくれました。
【Aさんの場合】
クリニックを訪れた50代女性、Aさんのお話です。
Aさんは、某大手メーカーにて技術関係の仕事をしていました。40代で心療内科を受診。
そして“軽いうつ病”と診断され、薬を飲み続ける日々が始まります。
亀仙人に言わせると「軽いうつ病ってなんだ? 軽いインフルエンザとかあるのか? インフルエンザはインフルエンザ、うつ病はうつ病なんだよ」ということになって、心療内科批判が始まるのですが……。それはさておいて、Aさんはそうして10年近く、その心療内科に通い続けるのですが、まったく改善の兆しが見られません。
そんなとき、今の心療内科に通い続けていてもよくならず、非常に危険だと判断した会社常勤の産業医に紹介され、亀仙人のクリニックを訪れました。
「どんな診断を下すにせよ、本人からの聞き取りや問診だけではなく、家族や職場の人も加えた3方向から聞き取りをする必要がある」と亀仙人は言います。
その言葉通り、本人とご主人はもちろん、仕事関係の数人にもお願いして、かなりの量の問診票を事前に書いてもらいました。そして本人からは、毎日の起床・就寝時刻はもちろん、いつ何をどれだけ食べたか、水分摂取量やスマホやパソコンの使用時間、排便・排尿にいたるまで、初診までの2週間の活動内容すべてを記録した生活記録表も提出してもらったそうです。
そのうえで迎えた初診の日。13時24分~17時まで約3時間半にわたって、ご主人同席のもと、Aさんは亀仙人と話をしました。幼児期から学童期の発達の様子や、両親や家族のプロフィール、住んでいた場所、通っていた学校、転居歴や転職歴にその理由、それに日々の感情の変化や出来事を何気ない会話の中から聞き取っていきます。
精神疾患には遺伝性のものもあるそうです。だからとくに両親や家族の受診歴は貴重な手がかりになるのに、それすら尋ねないクリニックが多いと亀仙人は憤ります。
その結果、わかりにくかったのですが、Aさんには「軽躁状態」があることが判明しました。それにご主人の話から、ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなってしまうときがあることも判明しました。それらのことから、亀仙人はAさんを、うつ病ではなく「双極性Ⅱ型障害」と診断しました。
「双極性Ⅱ型障害」は、躁状態の山が低いために気づかれず、うつ病とよく間違われる病気です。10年間飲み続けた抗うつ薬をやめることは大変でしたが、亀仙人のクリニックで、薬に頼らないリワークプログラムを続けることで、Aさんは 見事に復職を果たしました。