「病的じゃない抑うつ状態」という言い方に、思わず身を乗り出したひなた。亀廣医師は、うつ病と同じく抑うつ状態を示す病気を6種類あげながら「何年も抗うつ薬を飲んでいて改善されていない人は、かなりの確率でうつ病ではない」と断言します。「どうして、そんな誤診が横行するんですか?」と詰め寄るひなたに、亀廣医師は……。

それ、思いっきり問題じゃないですか

ひなた 「病的じゃない抑うつ状態って、いったい何ですか?」

亀仙人 「ま、簡単に言うと、単なる落ち込みだね」

ひなた 「落ち込み? そんなことで心療内科に来る人がいるんですか?」

亀仙人 「いるよ。たくさん。失恋したとか。まぁ、これは、そもそも誰にでもある気分の一時的変化で治療対象外」

亀仙人 「駅前クリニックで診察するという前提で言うと、問題は抑うつ状態(抑うつエピソード)を示す病気には、6種類程度あるってことなんだ」

ひなた 「6種類ですか」

6種類が、多いか少ないかはよくわかりません。でも、そう答えながら(私もやっぱ、うつなのかな……)そんな考えが浮かんでは消えます。

亀仙人 「認知症も抑うつ状態を示すことがあるけど、うちでは診ていないので省くからね」

亀仙人はそう言いながら、ホワイトボードにテキパキと書いていきます。

なんだか恐ろしげな病名の羅列に、私は少し圧倒されました。

・双極性障害
・大うつ病(うつ病)
・抑うつ体験反応(神経発達障害との併存症として広義の適応障害を含む)
・症候性抑うつ状態
・統合失調症の抑うつ状態
・薬剤性抑うつ状態

亀仙人 「この中で、実際に抗うつ薬が効くのは1つ、大うつ病(うつ病)だけなんだ」

なんだかよく理解できないので、私は尋ねました。

ひなた 「ということは、つまりどういうことでしょうか?」

亀仙人 「つまり、多くの人が抑うつ状態だけにフォーカスして『うつ病』だと診断されて、うつ病にしか効かない『抗うつ薬』を処方されているってことだよ」

ひなた 「それ、思いっきり問題じゃないですか」

▲それ、思いっきり問題じゃないですか イメージ:PUXTA

亀仙人 「そうなんだ、ほとんどの場合は抗うつ薬じゃ治らないんだよ。実際に、うつ病だと診断されて、うちのクリニックに転院してきた例は、これまでに540例ほどあるんだ」

ひなた 「めちゃくちゃ多いですね」