運ばれてきたお茶のふたと一緒に、パンドラの箱のふたも開けてしまったひなた。それに呼応するかのように、亀仙人こと亀廣聡医師は心療内科クリニックの現状について、義憤をにじませつつ話します。「臨床心理士などのカウンセラーもいないのに、初診を15分で片づけて薬だけ出すようなクリニックは絶対ダメなんだ」という、その理由とは――。
みんなが納得するから〈茶柱=幸運〉が成立する
お茶をズルズルとすすりながら時計を見ると、もう2時になろうとしています。
初診は2~3時間と言われて驚きましたが、あっという間に1時間が経っていました。亀仙人は湯のみ茶碗を片手に「茶柱が立ってる! ラッキー!」と喜んでいます。
亀仙人 「茎の片側だけが水を含んで重くなるから、茶柱が立つという現象が起こるんだ」
どうでもいいような理屈ですが、亀仙人は鼻をふくらませて続けます。
亀仙人 「茎が混入するような安い番茶を売るために、茶柱が立つと縁起がいいというマーケティング戦略を取った、という説もある」
ひなた 「そんなマメ知識はいいですから。『うつ』が便利な病名っていう意味を、教えてもらえませんか」
その瞬間、真面目な顔つきに変わった亀仙人は言いました。
亀仙人 「じつは、うつ病と今の話はつながるんだよ」
ひなた 「茶柱の話がですか?」
亀仙人 「そう、茶柱が立つと縁起がいいというのは、本当に幸運になるかどうかという問題ではなく、その人が納得するかどうかだよね」
ひなた 「まぁ……」
亀仙人 「茶柱が立つと幸運だと、みんなが納得するから〈茶柱=幸運〉が成立する」