前回は、“パチンコ”を例にとってPDCAを回すことの意義を説いた小山昇氏。今回“競馬”で解説するのは「データが少ない場合の対処法」そして「定量情報と定性情報の組み合わせ方」です。キーワードは「暗黙知」と「相対評価・絶対評価」。武蔵野では社員の人事評価も競馬と同じようにするというのですが、その意味とは……?

少なくてもいいから今あるデータで考えてみる

会社には、売上・利益・客数・リピート率・メールの開封率・受注と発注のリードタイムなど、さまざまな数字があります。ところが赤字の会社の多くは、こうした数字をデータベース化していません。

データが蓄積されていない場合「データが溜まるのを待ってから分析をする」のと「手元にある少ないデータで、とりあえず仮説を立てる」のでは、どちらが早く結果につながると思いますか?

答えは、後者。つまり「少なくてもいいから、今あるデータで考えてみる」。トライ&エラーです。

▲少なくてもいいから今あるデータで考えてみる  イメージ:PIXTA

データ量の多いほうが、分析の精度仮説の精度も上がります。しかしそれは、分析者に実力がある場合です。

たとえば、スキル「3」の人はデータ量が増えても、スキル「3」の判断しかできません。判断の結果が同じなら、データが溜まるのを待つだけ時間のムダです。

スキル「3」の人が、少ないデータをもとに判断をするとどうなるかと言えば、たいていは判断を誤ります。ですが「なぜ間違えたのか」を検証することで、スキルは「4」に上がる。

トライ&エラーを繰り返すうちに、スキルが「5」「6」「7」……と少しずつ上がっていき、3ヵ月後にはスキルが「10」になるかもしれない。そのころには分析者の実力も上がり、データ量も豊富になって、仮説・検証の精度も上がります。

PDCAサイクルを回し続けると(トライ&エラーを繰り返すと)、自分の「頭」の中にも膨大なデータが蓄積されます(失敗体験や成功体験も蓄積されます)。すると、データを見た瞬間に「この場合は、こうなる」「こうすると、失敗する」「こうしたほうが、もっと良くなる」ことが経験的・実感的にわかるようになります。

これまでの経験から判断する知恵のことを「暗黙知」と言います。仮説は、あくまでも「こうなるかもしれない」という予測ですが、私の場合は、暗黙知を働かせているので「こうなる」という結果が見通せる。だから即断即決できます。