いまや生活に欠かせないスマホだが、その利用料金の高さを負担に感じている方は多いことだろう。編集記者も、分割払いにしている端末の購入代金・電話料金・データ通信費をあわせ、なんだかんだで毎月1万円キャリアへの支払いをしていた(現在は格安スマホに乗り換え)。なぜ日本のスマホ料金はかくも高いのか――。
その憤りにズバリ答えてくれる1冊が『スマホ料金はなぜ高いのか』(新潮新書)だ。NTTでの勤務経験もある著者の山田明氏に、日本の通信業界の問題点と未来を聞いた。〔※カッコ内引用のコメントはすべて山田氏のもの〕
東京は海外に比べて30%~40%通信費が高い
わたしたちが体感的に「高い」と感じているスマホ料金だが、実際に数値ベースでは海外と、どれだけの差があるのだろうか。2つの視点から明らかにしていこう。
1つは、家計支出に占める電話料金の割合だ。内閣府が作成した資料によれば、家計最終消費支出に占める通信費の割合が、日本は3.7%とOECD加盟36か国中4番目に高くなっているという。通信費=スマホ料金というわけではないが、ひとつの指標になるだろう。ちなみに、この数字は韓国の3.1%や米国の2.5%を上回っている。
もう1つが、料金水準そのものの比較である。山田氏によれば「総務省は日本の携帯料金を意図的に低く見せていた」という。
「総務省の『電気通信サービスに係る内外価格差調査』で報告された、東京における携帯電話料金の価格は、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクのような大手事業者の料金ではなく、ソフトバンクグループの格安携帯会社ワイモバイル(Ymobile)の料金が採用されていました」
驚きの実態である。調査会社MCAが、あらためてシェアが最も高い事業者のプランで携帯通信料金を比較すると……
- 2GBモデル:東京5942円/海外5都市3552円
- 5GBモデル:東京7562円/海外5都市3696円
- 20GBモデル:東京8642円/海外5都市5590円
と、東京は海外に比べて30%~40%通信費が高いのだ。編集記者の実感値としても、この数字は納得できる。東京の通信費はここ数年高止まりする一方、海外ではスマホ料金はどんどん低下している。山田氏は要因をこう分析する。
「拙著でも紹介した“2つの方法”によるものと考えています。1つが格安スマホ(MVNO)への乗り換え。ドイツでは政府の促進策を受けて、格安スマホの使用が拡大しました。そして、これに対抗するために値下げした大手キャリア(MNO)の料金は、3年間で71%値下がりしたと言われています。
もう1つが新規参入事業者の登場です。フランスでは、日本の楽天に相当する第4の通信事業者の参入が競争を活性化し、料金の値下げにつながりました。ここでもシェア首位の大手キャリア(MNO)は、70%以上も値下げしたようです」
スマホ業界の寡占・利権・癒着を指摘した菅首相
70%以上の値下げとはうらやましい限りだ。反対に日本のスマホ料金は、なぜなかなか下がらないのだろうか。政府はこれまでもキャリア側に値下げを促していたが、菅首相が、官房長官になるまで“目くらまし”を続けていたのだという。
「日本のスマホ業界(総務省・ドコモ・KDDI)の特徴は、寡占・利権・癒着です。総務省の役人とドコモやKDDIの社員は、いわば『官民サラリーマン共同体』と呼ばれる、一心同体の関係にありました。その結果、総務省の官僚は菅官房長官(当時)に指摘されるまで、日本のスマホ料金は高くないと言い続けてきたのです。
大手3社のこれまでの対応を一言で表すならば『面従腹背(めんじゅうふくはい)』です。菅氏のように携帯料金の問題を深く考える総務大臣は、彼以前にはいなかったので、大手3社から目くらまし的な分かりにくい料金値下げプランを示されても、その内容を見抜けず、その結果、実質的な値下げが行われないまま、大臣交替時期を迎えてきました」
しかし、菅氏の登場によって状況は変わりつつある。
「菅氏は、副大臣や総務大臣として真面目に通信分野を勉強し、業界や官僚に対する深い知識と理解を持っています。菅氏の元では、いい加減な対応ができません。菅氏が官房長官、そして総理になり、官僚の人事も一元的に行う体制が確立する中で、菅氏に抵抗できる官僚はいなくなり、現在の総務省では、谷脇総務審議官が菅氏の意を受けて実質的に省内の実務を回し、大手3社と対応しているように思えます」