「マテ」は練習すれば練習するほど上達する

この前頭連合野の我慢力ですが、鍛えることができます。前頭連合野の特徴は、筋肉と同じで、日頃から使っているとその力が強くなっていくところです。マテの練習は前頭連合野の働きを使っていると考えられます。

マテは練習すれば練習するほど上達します。ある場面でしっかりマテができるようになったら、別の場面でもマテの上達が早くなります。これは、どんな場面のマテにおいても使っている脳の部位が共通しているからです。

そして、前頭連合野が鍛えられることで、多少不快な状況に置かれたとしても、その状況に対して「少し先にはこの状況は終わるし、そもそも一時的にこの状況に置かれることは命に関わることでもなければ、怪我をすることでもないし、飼い主さんからもマテの合図が出ているから安全だな」という判断ができるようになります。

周囲の状況を判断できる能力は、衝動を抑えると同時に、ストレス反応を抑制します。この能力が育てば、多少の不快な状況に対しては過剰反応を示さなくて済むようになります。

お互いが小さな我慢をして安心できる生活に

前頭連合野の我慢力を伸ばすには、小さな我慢経験を繰り返し与えることが重要です。

いきなり大きな我慢を強いるような状況では、我慢が失敗しやすくなりますので、無意味どころか逆効果になります。反対に、小さなストレスでも避け続けていると、我慢力は育ちません。我慢力育成には、中庸が大切ということです。

我慢することを教えて、小さなストレスや多少の不快な状況があっても、その先に安心があることを教えることができれば、小さなストレスは、ストレスとして感じなくなります。

ストレスを避けるのではなく、多少のストレスであれば、少し先には安全があるということを教え、我慢力を伸ばしていくことが、犬が過剰なストレスを感じずに生活していくうえでとても大切なことです。

お互いが小さな我慢をして安心できる生活に イメージ:PIXTA

しかし、当然ながらなんでも我慢させたら良いのかというとそうでもありません。人にとって不都合だから、ずっとケージに閉じ込めたままでは動物虐待です。犬だって我慢ばかりの生涯では辛いはずです。

人の利益と犬の利益が衝突する場面において、人も犬も双方我慢をしなければ、共生は成立しません。そこには、人の生活を確保しながらも、犬に最大限フェアで倫理的なルールが必要です。