コロナショックがグローバル化するほど、中国にとってはそのチャンスが広がります。中国も日本とは別の意味で、コロナショックという“ピンチ”を“チャンス”に変えていることに、日本はもっと警戒すべきだと経済一筋50年のベテラン記者・田村秀男氏は警鐘を鳴らす。
“焼け太った”中国の勢いに飲まれてはいけない
アフターコロナの世界でキーワードになるのは、間違いなく「脱中国」です。新型コロナウイルスのパンデミックでここまで世界が混乱したのは、それだけ世界中の国々が、生産や医療など、国民の生活や生命にかかわる重要な部分を中国に依存していた(握られていた)からに他なりません。そのことがコロナショックによって明確になりました。
「脱中国」は日本のみならず、もはや世界共通の課題なのです。そのためにも、まずは中国という国家の危険性をしっかりと我々が認識しておく必要があります。
特に警戒しておかなくてはいけないのは、コロナショックで世界が苦しんでいるなか、中国が着々と「焼け太り」を狙っているということです。
焼け太りとは、火災にあったあと、保険金や見舞金によって、以前よりも生活や事業が豊かになること。転じて、危機や災難を逆に利用して利益を得たり、事業規模を大きくしたりすることを意味します。
中国の経済モデルを一言で言えば「全体主義経済」です。個人よりも全体(正確には中国共産党)の利益が優先される全体主義がベースにあり、全体の利益のためには経済活動のあらゆる範囲に、政権の介入が及ぶというシステムです。それは帝国主義にもつながる侵略型・捕食型の経済モデルであり、現代社会の道徳的な観点からは、あってはならない、滅ぶべき存在だと言えます。
しかし現実には、この経済システムは強固であり、特にコロナショックのような混乱時にその強みを最大限に発揮します。まさにコロナショックは、焼け太りにはうってつけなのです。
中国が全体主義経済の強みを活かし、世界に先駆けてコロナショックから立ち直った場合、日本経済が落ち込んだままでは“焼け太った”中国の勢いに飲み込まれてしまう恐れがあります。
その“最悪のシナリオ”を避けるためにも、日本は絶対にコロナショックからのV字回復を実現しなければならないのです。
もっとも現状は、アメリカをはじめ世界各国から中国に対する厳しい視線が注がれているので、すべてが中国の思惑通りにはいかないかもしれません。しかし「親中派」と呼ばれる人々は世界中にいます。
彼らの存在がいかに恐ろしいかは、今回のコロナショックにおけるWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長の露骨な中国擁護によって、多くの人が身に染みてわかったはずです。世界中に親中派がいる限り、国際社会が一時的に中国を包囲したところで予断は許されません。
特に日本には、政権の中枢に親中派の政治家がたくさん存在しているので油断は禁物です。彼らが日本の利益をないがしろにして、中国の利益を優先するような言動をした時には、我々国民がはっきりと選挙で“NO”を突きつけなければなりません。
もっとも、習近平政権がコロナショックでの焼け太りを狙っているとはいえ、実際のところ今の中国経済はかなり行き詰まりを見せています。中国は他の先進諸国のように思い切った量的緩和政策をできない事情があるため、焼け太ろうにもそう簡単には太れない状況にあるのです。
ただ、中国をめぐる情勢は刻一刻とめまぐるしく変わっている最中なので、“最悪のシナリオ”も含めていま一度考察してみる必要があると思います。
コロナショックで“救世主”の座を狙う中国
新型コロナウイルスの感染は文字通り世界を覆い、“グローバル化”しました。この先はいち早くピークアウト、つまり峠を越して経済を回復させ、生産やヒトの流れを復活させた国が勝者になれる、という状況になっています。
それを理解してか、習近平は新規感染者が減少するにしたがい、自身が指揮するウイルスとの「人民戦争」が勝利に近づいたことを、たびたび国内外にアピールしてきました。
ウイルス感染などの厄災を強制的に封じ込める(あるいは封じ込めたかのように見せる)のは、ある意味で全体主義国家の得意分野です。国民の人権を無視して、徹底的に行動を監視・束縛し、情報を統制すれば、“形だけ”でも封じ込めを実現しやすくなります。
一方、アメリカや日本のような自由主義国家、民主的な社会ではなかなかそうはいきません。我々にとって当然の権利である人権や自由を守らなければならないので、中国のような国に比べると強制力にはおのずと限界があります。
もちろん、中国が大本営発表的に世界に発信する情報や「勝利宣言」は、額面通りに受け取れません。実際のところ国家による強権的な封じ込め作戦が、どこまで医学的に未知のウイルスに効果があるかは未知数です。
しかし、一般論として全体主義モデルのほうが、こういった未曾有の緊急事態時に効率的な成果を上げられるということは十分にありえます。
自由主義国家がコロナショックで混乱し、発展途上国にも感染が拡大していくなか、“コロナを見事に克服した”中国が打った次の一手は、イタリアをはじめとするヨーロッパ各国や中東、東南アジアなどへの医療支援でした。
医師の数が足りない、緊急救命装置や呼吸補助装置も足りない、そしてベッドも足りないと悲鳴をあげている国々に、“コロナを見事に克服した”緊急医療チームや医療品などを届け「中国はできるだけの人道支援をします」と宣伝しています。
パンデミックの元凶でありながら、いつの間にか“救世主”のように振る舞う厚顔ぶりと宣伝工作にはあきれてしまいますが、全体主義の狡猾さを甘く見てはいけません。実際に、こういう手法で中国は国際的な影響力を高めようとしているのです。
もちろん、中国の下心に気づいて警戒する国も多いのですが、背に腹は代えられぬ状況で苦しんでいる国では歓迎ムードも見られます。なかには、そのまま中国に取り込まれ、親中派に染まる国も出てくるでしょう。
我々、自由主義国家が動けない隙に、中国は世界にどんどん“支援”の手を差し伸べ、その“実績”を盾に自分たちの経済圏・支配圏・影響圏を広げていこうとしています。
コロナショックがグローバル化するほど、中国にとってはそのチャンスが広がります。中国も日本とは別の意味で、コロナショックという“ピンチ”を“チャンス”に変えていることに、日本国民はもっと警戒すべきでしょう。