コロナショック後は“しょぼい”中国の経済対策
中国はリーマンショック時に、アメリカが実施した大規模な金融緩和政策の恩恵をうけて巨大化し、世界に脅威をもたらす全体主義の“怪物”へと成長していきました。では、今回のコロナショックではどうでしょうか。
FRBのパウエル議長は、リーマンショック級のニューヨーク株価の急落を見て、ゼロ金利で無制限にドル資金を発行する量的緩和政策に打って出ました。このドル資金がアメリカからあふれ出て、中国に流入するようだと習近平政権の思うツボです。
コロナショック前の中国の金融は、息も絶え絶えでした。経済の失速や不動産市場の低迷を背景に資本逃避が急増したため、外国からの外貨借り入れを増やさないと、外貨準備が急減する恐れがありました。アメリカを無制限緩和に走らせたコロナショックは、中国にとって窮地から脱するチャンスになり得ます。
もちろんリーマンショック時のように、今回も巨額のドル資金が中国に流出するとは限りません。特に対中強硬策を掲げるトランプ政権は、対中貿易赤字を大幅に削減するよう習近平政権に迫っています。トランプ政権が続く限り、リーマンショック後のような中国の膨張を放置しておく可能性は低いでしょう。
しかし、今日のグローバル経済のもとでは、おカネに国境はありません。おカネは絶えず収益と投資機会を求めて動きます。中国だろうとどこだろうと“儲かる”と判断したところにはどんどん流れていきます。
もちろん習近平政権もそれをわかっていますから、コロナショックを克服したことを全世界にアピールし、中国への投資を呼び込もうとしています。5G(次世代の移動通信システム)やAI(人工知能)など将来性のある分野に戦略的・重点的に投資し、世界からおカネと人材を引きつけようとしているのです。
経済学の教科書には「供給が需要を生み出す」という有名な言葉があります(セイの法則)。全体主義国家・中国の経済モデルは、まさにそれに当てはまります。
ところで、新型コロナウイルス・パンデミックの元凶である中国は、コロナショックに対してどのような経済政策を行ったのでしょうか。調べてみると、実に“しょぼい”内容であることがわかりました。
めぼしいのは、社会保障費減免と減税合わせて0.4兆元(日本円換算で約6兆円)ぐらいです。リーマンショック時の財政出動は4兆元(約60兆円)でしたから、今回はその10分の1ほどの規模しかありません。あとは中小企業向けなど、金融を中心とした支援策を小出しにしているぐらいです。
なぜそのようなことになっているのかは、ここまで読んでこられた皆さんにはすでにおわかりかと思います。やりたくても、できないのです。次のグラフは、人民元発行高に対する人民銀行の外貨資産(外貨準備に相当)の比率の推移です。
このグラフが示すように、リーマンショック当時は、外貨資産が人民元発行残高の1.2倍以上もありました。だからこそ、人民銀行もリーマンショックの際には、ふんだんにある外貨(ドル)を裏付けにして、人民元を大量発行する大々的な金融緩和策を実施することができたわけです。
その結果、銀行の新規融資はそれまでの2~3倍も増えました。中国経済も勢いづいて2ケタ台の高度成長軌道に乗り、リーマンショック後の世界経済を牽引しました。
ところが2014年頃からは、人民元発行高に対する外貨資産比率が100%台を割り、最近では70%前後で推移しています。中国国内から香港経由による国外への資本逃避が急増しているため、以前のように外貨資産を増やせないのです。さらに現在は、コロナショックの影響により、主力外貨収入源である輸出が急減しています。
習近平政権にしても、財政・金融の拡大をしたいのは山々でしょう。しかし、ドルの裏付けなしで人民元を大量発行すれば、最悪の場合、悪性インフレに陥ってしまいます。そうなると、共産党政権の存続そのものが危うくなるのです。
※本記事は、田村秀男:著『景気回復こそが国守り 脱中国、消費税減税で日本再興』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。