中国経済とドルとの関係で非常に重要なキーワードになるのが、コロナショック以前から何かと話題の「香港」です。香港では2019年3月以来、若者を中心とした民主化要求デモが盛んに行われてきました。日本人の多くは香港問題を政治の問題だと思っているかもしれませんが、経済一筋50年のベテラン記者・田村秀男氏によると背景にあるのは中国経済の問題だと言います。
中国にドルを与えるな!技術を盗ませるな!
これまで中国は、対米貿易黒字でドル(外貨)さえ稼いでいれば、それを元手に人民元を発行して経済を成長させることができました。成長著しい中国市場には海外からの投資でさらにおカネが集まります。
“儲かる”中国市場に進出したい外国企業に対し、共産党政権はマーケットへの参入条件として特許や技術、ノウハウを半強制的に提供させるなど、やりたい放題好き勝手にやってきました。それに“NO”を突きつけたのがトランプ政権です。
トランプ政権の対中強硬策の基本路線は、これ以上アメリカの貿易赤字で中国にドルを稼がせない(貿易収支の是正)、先進国の技術や特許を盗ませない(知的財産権の保護)、というスタンスで一貫しています。
トランプ政権の対中強硬策の結果、中国はアメリカ以外の国も含めた対外貿易の黒字額をどんどん減らしていきました。対外貿易の収支のほか、サービスや投資、対外援助などの収支も含めた経常収支も、その黒字額を大きく減らしています。
アメリカがこのまま対中強硬策を取り続ければ、近い将来、中国は赤字国に転落します。赤字国になればそう簡単には人民元を刷れなくなり、経済・金融のさまざまな面で制約を受けることになります。
米中対立の激化で中国の先行きが暗くなれば、海外からの投資でドルを集めることも難しくなります。一方、中国内の富裕層は積極的に資本逃避を行い、自分たちのおカネをどんどん海外に逃がしていきます。
おカネが海外に逃げるということは、人民元が売られるわけですから、放っておけば人民元の価値が下がって暴落し、悪性インフレになる危険性があります。
そのような事態は、共産党政権としては絶対に避けなければなりません。となると、これまで蓄えてきた外貨準備を取り崩して、人民元を買い支える必要があります。つまり、手持ちのドルを売り、人民元を買うことで、人民元の暴落を防ぐということです。
人民元を買い支えるには、ドルが必要になります。しかし、肝心のドルは、貿易でも投資でも手に入りにくいうえに、資本逃避で海外に出ていく――この悪循環で中国の外貨準備はどんどん減っていくことになります。そうなると、最後の頼みは“借金”しかありません。
つまり、外国からおカネを借り入れて外貨準備の減少を補うということです。この悪循環は、現実の問題としてすでに中国で起きています。それをはっきりと示しているのが次のグラフです。
2014年には4兆ドルほどあった外貨準備は、その後どんどん減り続け〔当時、富裕層の資本逃避が急増しました〕、2017年には約3兆ドルまで低下しています。そして、2017年以降は外国からの借金を増やすことで外貨準備3兆ドルをなんとかキープし、その外貨準備をもとに人民元を発行しているという危うい状況が、このグラフから読み取れます。
中国の懐事情はコロナショックのずっと前から“火の車”だったのです。