実力派コンビを抑えて一番の大爆笑をかっさらう

2012年12月16日。この日は、THE MANZAIの決勝でもあり、ここで結果が残せなければ万事休す。芸人・平子祐希は終わる。運命の一日を迎えた。

番組の平均視聴率は17.3%。多くの日本国民が視聴するなか、アルコ&ピースが立っている決勝のステージは、大爆笑の渦に包まれていた。

「忍者」ネタが、ウケにウケたのだ。 

同じグループには、実力派コンビ笑い飯の姿もあったが、9人の審査員全員がアルコ&ピースに票を投じ、グループ予選を圧勝。

芸人引退という、崖っぷちに立たされていたアルコ&ピース。三振かホームランかの一世一代のフルスイング。気づけば超特大ホームランを放っていた。この忍者ネタは伝説となったのだが、当時の様子を「スローモーションに見えた」と平子さんは振り返る。

「僕の立ち位置から、審査員全員とナインティナインさん(MC)や、ビートたけしさん(大会最高顧問)がよく見えて、みんな笑っているなと。2011年は緊張して、おぼつかない感じもありましたけど、あのときは時間がゆっくり流れたんですよ」

これが感覚が研ぎ澄まされ、究極的に集中している「ゾーン」というものだろうか。

「……まあ、残念ながら同じ体験をすることは二度とないんですけどね。むしろ、ファイナルステージでは、冷や汗に変わりましたから(笑)」

ちなみに、THE MANZAIの様子を、妻の真由美さんは実家で見守っていたそうだ。夫の出番の前には、妻は仏壇でご先祖様に手を合わせた。会場のウケ具合に「ヨシッ」と反応しながら静かに見守った。

審査員の投票が大きなスクリーンに映し出され「アルコ&ピース」の名前が一面に広がると、集まっていた親戚は手を叩き喜んだ。その時、真由美さんは口元を押さえて固まっていた。

結局、この戦いで優勝を掴んだのはハマカーン。アルコ&ピースは千鳥とともに惜しくも負けてしまうが、アルコ&ピースの忍者は大きすぎる爪痕を残した。

「決勝の次の日が最後のバイトになりましたね」

金銭面にも大きな変化があった。そして一番大きいのは気持ちの変化だ。「『芸人はもう辞めていい』と思っていたはずなのに、続けられることになって嬉しいなと感じたんです。『あ、本当は辞めたくなかったんだな』って」。

▲優勝こそならなかったが、得たものは大きかった