新型コロナウイルスの感染が再拡大していますが、感染者のほとんどが無症状もしくは軽い風邪程度です。なぜ、無症状感染者がこれほど多いのでしょう。腸内細菌研究・感染免疫学の第一人者である藤田紘一郎博士は「ここに感染予防に、もっとも重要な事項がある」としています。

※本記事は、藤田紘一郎:著『腸内細菌博士が教える 免疫力が上がる食事術』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

新型コロナウイルスの無症状感染者が多い理由

「自然免疫力を高めておけば、新型コロナは怖くない」と、なぜ断言できるのでしょうか。このウイルスに関しては、早い段階で、WHO(世界保健機関)が感染者の81パーセントが軽症で、重い肺炎や呼吸困難などの重症が14パーセント、命にかかわる重篤な症状が5パーセントと報告していました。

その軽症者のほとんどは、無症状もしくは軽い風邪程度です。こうした人たちが、自分が感染していると気づかず、ウイルスを広げてしまっていると問題視されました。しかし「なぜ、無症状感染者がこれほど多いのか」については問われませんでした。ここにこそ「感染予防にもっとも重要な事項がある」のに、です。

▲新型コロナウイルスの無症状感染者が多い理由 イメージ:PIXTA

「感染しても無症状、もしくは軽症の人がほとんど」ということは、このウイルスの病原性が、自然免疫で十分に対応できる程度ということを表しています。

自然免疫とは、ウイルスなどの病原体が侵入すると、真っ先に動き、退治する免疫の先発チームです。ウイルスが数を大きく増やす前に自然免疫が退治できれば、たとえ感染したとしても、無症状もしくは軽症ですむのです。

自然免疫は、生まれながらに備わったシステムです。私たち人類は、この地球上に約700万年前に誕生し、進化することで今日まで生き残ってきました。人が生きてきた時代の大部分は、寄生虫や細菌、ウイルスなどの微生物による危険にさらされていました。

その過程で発達したのが、私たちの体内で働く免疫システムです。免疫が強固な防衛システムを持ち、それが非常にうまく働いたため、人類はこれほど数を増やすことができたのです。

そのなかでも自然免疫は、直面する絶えまない攻撃にうまく対応して、即応性や有効性の機能を向上させました。自然免疫を担当する細胞は、体中をパトロールしながら、細菌やウイルスなどの異物を見つけると、ただちに殺していきます。その能力を高める方法は、現代を生きる私たちにおいても変わりません。さまざまな細菌やウイルスなどの感染が、自然免疫を担当する細胞を活性化するのです。

これは、スポーツのチーム競技とよく似ています。練習試合を重ねたチームは、大きな大会でメンバーどうしの連携力を発揮できますが、どんなに能力の高い選手を集めたところで、一緒に練習をまるでしていなければ、重要な試合で連携を図れず、強豪相手に勝つことはできません。

自然免疫の働きも同じで、日常的に実践を重ねていてこそ、いざ強力な病原体が侵入してきたときに対応していけるのです。

▲自然免疫が弱ると感染症で重症化しやすくなる イメージ:PIXTA

自然免疫が弱ると感染症で重症化しやすくなる

ですから、清潔にしすぎることは、かえって自然免疫を低下させることになります。

もちろん身の回りを心地よく整理整頓し、清潔に整えることは、人として大切です。しかし、ふれるものすべてを薬剤の力で消毒し、室内に消毒剤を噴射し、皮膚常在菌が再生できないほど頻繁に手洗いや消毒をしてしまうと、自然免疫が練習試合をする機会を奪うことになります。

それでは、いざ強力な病原体が侵入してきたときに、自然免疫の力が弱くなっていて、たちうちできなくなってしまうのです。

この重大性に気づいてほしいと願います。家庭内感染が心配される状況を除いてお話ししますが、自宅のなかに消毒剤をまくようなことをやめましょう。食卓もアルコール除菌する必要はありません。食卓は水拭きで十分ですし、その食卓に落ちたものはきれいに拾って食べましょう。自然免疫を高めるには、こんなことが大事です。

食事は、微生物がもっとも侵入しやすい機会です。食卓にいる微生物たちが、自然免疫のちょうどよい練習相手になってくれるでしょう。

そもそも、私たちの生活環境には、ただちに命を奪うような恐ろしい病原体はいません。ちょっとくらい口にいれても、自然免疫がしっかり働いていれば、なんの症状も起こりません。

しかし、自然免疫が弱っているときに食中毒菌などが侵入してきてしまうと、命を脅かすような重篤な状態になることも起こってきます。「それを防がなければ」と心配になる気持ちはわかります。目に見えない未知のものは、誰だって怖いのです。

だからといって、微生物を薬剤で執拗に排除する生活をしていると、自然免疫が弱って、かえって感染症で重症化しやすい体になってしまうことを忘れないでください。