「日本の外国語教育はおかしい」と考える、東京大学名誉教授のロバート・ゲラーさんに、アメリカ英語とイギリス英語の違いについて聞いてみました。また、英語圏に輸出された日本語についても教えてもらいます。「sukoshi」(少し)が、まさかそんなふうに使われていたとは(笑)。

アメリカ英語とイギリス英語は別物だ

英語を学ぶときには、アメリカ英語とイギリス英語をゴチャゴチャにしないように気を付けなければいけない。日本で使われている英語は、ほとんどアメリカ英語がベースだ。

消しゴムのことを、アメリカでは「eraser」と言うが、イギリスでは「rubber」と言う。アメリカでは「消しゴムをもらえますか」と言うときに「Can you give me an eraser?」と言えば問題ないが「Can you give me a rubber?」と言うと、大変まずいことになる。アメリカでは「rubber」はコンドームの俗語(スラング)だからだ。

アメリカで「He is on the job.」と言うときは「彼はいま仕事中だ」という意味になる。ところがイギリスでは「彼はいま(男女の関係で)取り込み中です」という卑猥な意味に受け取られる。

アメリカ英語とイギリス英語には、こういう違いがたくさんある。綴りもだいぶ違う。例えばアメリカでは「色」は「color」だが、イギリスでは「colour」だ。アメリカでは「名誉」は「honor」だが、イギリスでは「honour」と綴る。イギリスとアメリカでは記号の使い方も異なる。文章を書くときにいずれかの使い方を貫けば問題ないが、イギリス英語とアメリカ英語のルールをゴチャゴチャに混ぜてはいけない。

▲アメリカ英語とイギリス英語は別物だ イメージ:PIXTA

また 「flip」という英語は、日本ではテレビ番組でメモや図表を見せる「フリップ=紙でできたパネル」として使われる。アメリカでは「はじき上げる」という意味の動詞として使う。

サッカーのボールを、どちらのチームが最初に蹴るか決めるときに、代表がコインを投げる。コインを空中に投げると、表が出るか裏が出るかは半々の確率だ。こういうときに「flip a coin」と言う。

ただし「He flipped.」とは「彼はひっくり返った」などという意味では決してない。これは特殊な意味、すなわち「減刑を受けるために、容疑者もしくは被告人が全面的に検察と協力することになった」を意味する。要するに「司法取引に応じた」ということだ。アメリカの日常的俗語の中には、こういうものがときどきある。日本では「彼はカン(完)落ちした」と言うのと同じだ。

「カン落ち」を意味する「flip」の作法は「俗語」だ。アメリカではインテリ層を含め誰でも知っている。日本の英語教育の授業時間は限られており「flip」のような俗語をたくさん教えることは難しい。だが、俗語の代表例くらいは学校で少し教えても良いのではないか。

スラングを覚えれば、ケーブルテレビでCNNやMSNBCを観たり、オンラインでニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルを読む手助けになる。また、英語のツイッターをフォローするときにも役に立つ。

英語圏に輸入された日本語は別の意味を持つ

日本語が外来語として、英語圏に輸入されるケースもある。例えば「It’s just kabuki.」という言い方だ。直訳すると「これはただの歌舞伎だ」となるが、実際には日本の歌舞伎は関係ない。「これはただのパフォーマンスだ」というような意味だ。

日本の火鉢は、戦前まで暖房器具として使われていた。アメリカで言う「hibachi」は、石炭に火を入れてバーベキューに使う家庭用クッキング器具を意味する。「hibachi」は英語圏と日本とで、全然違う意味で使われるようになった。

▲英語圏に輸入された日本語は別の意味を持つ イメージ:PIXTA

「Takeme to the head honcho.」(私をボスのところに連れて行きなさい)という言い方は、太平洋戦争直後から使われている。おそらく軍隊で言う「班長」あたりが「honcho」に転じたのだろう。「head honcho」と言うと「一番偉いボス」を意味する。

ちなみに、太平洋戦争の特攻隊員のことを英語で「kamikaze」と呼んだが、戦後の俗語で「kamikaze taxi driver」は危険運転をするタクシー運転手を意味するようになった。

ほかにも「ちょっとだけお酒をついでください」と言いたいときに「just a sukoshi(少し)」と言ったりする。相手の名前に「san」(さん)を付けるアメリカ人も増えたが、日本の習慣がわからないために、ときどき彼らは自分の名前にも「san」を付ける。

「futon」(布団)など、英語圏に輸入された日本語はほかにもたくさんある。言葉遊びのように和製英語や洋製和語を探すのも、英語の勉強の余興として面白いだろう。

※本記事は、ロバート・ゲラー:著『ゲラーさん、ニッポンに物申す』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。