アメリカ・ニューヨーク出身でスタンフォード大学助教授を経て東京大学に着任し、同大学名誉教授になったロバート・ゲラーさん。1984年の来日以来、人生の半分を日本で過ごしています。その間に見た「ニッポン」は、科学者として、また一個人としても見過ごせない問題がそのまま放置されている国でした。ゲラーさんが、自身の子ども時代の語学学習の経験も交え、物申す!

子ども時代の読書は“やっぱり”欠かせない

英語教育について議論されるとき、内容よりも、いかに早期から英語を学ばせるかということに重点が置かれすぎていないか。

私はアメリカでの小学校時代、3年生まではまずはしっかり第一言語(英語)を学び、4年生からフランス語を学んだ。それもきちんと「読む・書く・聞く・話す・文法」という基礎を叩き込まれた。ちなみにこれはエリート小学校特有のもので、当時も今も、通常のアメリカの小学生は外国語教育を受けない。

日本の公立教育では、みな外国語教育を受ける。これには良い面も悪い面もあると思う。そのうえで私は、小学校への外国語教育導入については、もっと真剣に考え、議論するべきだと思う。外国語教育を中途半端なものにしないためには、それ相応の費用も必要だし、小学校で英語を教えることができる教師についても、相当の人数を確保しなければならない。

残念ながら、現実問題として全国の公立小学校でこれを実現するのは大変困難だ。だからこそ、小学校に英語教科を設けることは検討課題として残しつつ、まずは小学校での「日本語教育」を強化すべきだと思う。

「外国語教育」よりも「愛国語教育」である。日本語の「読む・書く・聞く・話す・文法」をマスターすれば、論理学の基礎ができあがるし、次の言語を学ぶ際に応用できる。

そのためには、読書は欠かせない。子どもにとっての一番の勉強は本をたくさん読むことだ。私の場合も、子どもの頃は本をとにかくたくさん読んだ。親が読書好きだったものだから、大人の本も子どもの本も、家にあった本を片っ端から手当たり次第に読んだものだ。読書の泉は、スポンジのように柔軟な子どもたちの頭にグングン染み込んでいく。

▲子ども時代の読書は“やっぱり”欠かせない イメージ:PIXTA

私の子ども時代の地元紙はニューヨーク・タイムズで、私は毎日読んでいた。新聞は膨大な量の情報の宝庫だし、政治・経済・文化からスポーツ・芸能まで、幅広い話題が扱われる。日曜日のニューヨーク・タイムズはとりわけ分厚く読み応えがあった。家に新聞を常備し、子どもたちが自然な形で新聞を読める環境を整えるのも大人の責務だ。

小学校で学んだフランス語がよみがえった経験

話が子ども時代のことに及んだので、ここで私がどのような外国語教育を受けたかを紹介しよう。

子どもの頃、私はニューヨーク市の市立教育大学であるハンター・カレッジ(現在、ニューヨーク市立大学の一部)の付属エレメンタリースクール(小学校、HCESと略す)に通っていた。市立だが厳しい入学試験があり、高い学力が求められる。

小学3年生までは第二外国語は勉強せず、第一言語である英語(アメリカでは「国語」は法律で定められていない)教育をしっかり受けた。小学4年生になると、第一言語教育に加えて、第二言語(第一外国語)の授業が始まった。

フランス語、ドイツ語、スペイン語のいずれかを外国語として選択する。ちなみに、私は普通より少し早く5歳で小学校に入学し、飛び級もしたので、7歳で小学4年生になった。第二次世界大戦が終了してから14年経った当時でも、アメリカではまだドイツに対するアレルギーは強かった。そこで私はフランス語を選んだ。

小学校時代の外国語の授業は、今思い返しても有意義なものだった。「読む・書く・聞く・話す・文法」という基本をおろそかにせず、フランス語の基礎をしっかりと叩き込む。

せいぜい小学生が勉強するレベルだから、もちろん難解な作品を原文で読んだり、フランス映画を字幕なしで理解できたりするというところまではいかない。そこまでフランス語をマスターしたい人は、大学でさらに勉強すればいいだけのことだ。

小学生レベルのごく簡単なフランス語を習得するだけでも、のちのち役に立つ。「フランス語を話せない教師が、現場で通用しない意味のない会話レッスンを教える」という不毛な授業ではなかったおかげで、私は今でも簡単なフランス語(例えば飛行機の客室乗務員による機内案内など)をだいたい理解できる。

日本に来る直前の1981年夏、私はフランスでの国債測地学および地球物理学連合(IUGG)の数理地球物理学研究会に参加した。シンポジウムが終わった後、レンタカーを借りてピレネー山脈へドライブに出かけた。

ホテルにチェックインするときに従業員とフランス語でしゃべり、レストランで料理を注文するときにも、小学校時代に学んだフランス語を使った。

▲小学校で学んだフランス語がよみがえった経験 イメージ:PIXTA

フランスに行って一週間ほど経った頃から、小学校で学んだ記憶がだんだんよみがえってきたことをよく覚えている。小さい頃に「読む・書く・聞く・話す・文法」をきちんと学んだ経験は大きい。外国語の基礎を早期につくっておけば、大人になってからも思わぬ場面で役に立つ。

※本記事は、ロバート・ゲラー:著『ゲラーさん、ニッポンに物申す』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。