校門で子どもたちを待ち続ける・・・
2020年に入ってから、心臓の状態が一層悪くなり、学校に行けない日が続きました。8月に入ると頭を下げ、苦しい呼吸が続くように。食欲もなくなったため、再入院が必要になりました。
注射が大嫌いなシバちゃんは、今まで注射をするときは必ず「ウ~、ワン!」と必ず怒っていました。ですが、このときは怒る元気も残っていないのか、素直に点滴用の注射針をつけさせてくれました。とても心配な状態です。
僕にとってワンちゃん、ネコちゃんや動物が怒るのは“いいこと”なんです。“怒る元気がある”と思っています。
3日ほど入院すると呼吸も落ち着き、エサを食べられるようになってきたので、診療終了後、涼しくなった夕方に散歩に出かけることに。腰は曲がり、頭を下げゆっくりゆっくりと歩くシバちゃん。僕はその後をゆっくりついていきます。以前は僕をグイグイと引っ張っていたのに……。
しばらく歩いて公園を過ぎ学校に近づくと、いきなり僕を引っ張るぐらい走り始めました。ビックリしながらもついていくと、ある場所で止まりました。そこは、いつも子どもたちを待つ校門。いつもの場所に座り、周りをキョロキョロ見ながら、ときどき学校の中を覗きます。
10分ほどその状態のまま動きません。僕は「誰もいないよ。さぁ、行くよ」と声を掛けました。しかし、僕の声は聞こえていないのか動こうとはせず、何かを待ち続けます。シバちゃんは子どもたちを待っていたのでしょうか。
仕方ないので、僕はそっと抱き上げました。わかってはいましたが、あまりの軽さに少しウルッときてしまいました……。
抱っこしたまま病院まで連れて帰りマットに置くと、シバちゃんはそのまま寝てしまいました。子どもたちの夢でも見ているのでしょうか、ときどき耳と前足をピクピク、楽しそうな顔で寝ていました。
その後、退院しましたが散歩は難しいようで、もう学校に行くことはありませんでした。自力で食事できなくなり、僕は毎日点滴に通いました。
日に日に衰弱するシバちゃん。僕は、飼い主さんに状態が厳しいことを伝えました。それからは、たくさんの人がお見舞いにやってきました。
今は高校生になっている女の子は、小学校が大嫌いだったけれど、シバちゃんに会いたくて学校に行っていたそうです。今は学校の先生を目指しているそう。犬のトレーナーを目指している人もいると聞きました。
点滴治療を始めて2週間が過ぎたころ「先生、シバタロウの呼吸がおかしいの」と飼い主さんから電話が入りました。
急いで家へ行くと、お気に入りの布団で横たわるシバちゃん。いつもなら頭をあげて、嫌な顔をするはずなのに、目を閉じたままぴくりとも動きません。お腹がゆっくりと上下することだけが生きていることの証拠です。この状態は、お別れの時間が近いことを意味していました。
僕は飼い主さんに、今日は注射をしないことを告げ「一緒にいてあげて」と声を掛けて、僕は病院に戻りました。飼い主さんが頭を撫でると、尻尾の先がほんの少し上がって嬉しそうな素振りがみえました。
その日の夜、シバちゃんは天国へ旅立ちました。訃報を聞いた人たちから、部屋が埋もれるほどたくさんのお花が届いたそうです。子どもたちの登校を見守り続けたシバちゃん。その姿は大勢の人たちの心にずっと残り続けることでしょう。
シバちゃんが旅立ってから何日かたった、ある日。いつもと同じように子どもたちが登校しています。先生に元気にあいさつをする子どもたち。その後、みんなチラッと目線を下にやって「おはよう!」とあいさつをしています。
子どもたちには、いまもシバちゃんが横にいるのが見えていたのかな。あっ、僕にも見えました、左右に嬉しそうに揺れている尻尾が……!
「スーパー獣医 Dr.北澤のどうぶつ事件簿」は、次回2021年1月12日(火)更新予定です。お楽しみに!!
十三次どうぶつ病院
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